病棟や術前外来で、抗凝固薬や抗血小板薬が入っている患者さんをみると、「何日前から止めるのか」「術後いつ再開するのか」で迷うことがあります。特にDOAC、ワルファリン、アスピリン、クロピドグレルは、同じ抗血栓薬でも考え方がかなり違います。
周術期の抗血栓薬は、薬の名前だけで判断するより、適応・手術の出血リスク・腎機能・最近のPCIやステント歴を先に確認するほうが安全です。
この記事では、2026年4月11日時点で確認できるPMDA掲載添付文書や学会資料をもとに、薬剤師が病棟実務で押さえたい休薬と再開の考え方をやさしく整理します。

もくじ
まず結論:最初に確認したいこと
| 確認項目 | 理由 |
|---|---|
| 何のために使っている薬か | AF、VTE、PCI後では止めにくさが違う |
| 手術・手技の出血リスク | 低リスクか、中〜高リスクかで休薬幅が変わる |
| 腎機能 | 特にDOAC、とくにダビガトランで重要です |
| 最近のPCI、ステント留置、DAPT中か | 抗血小板薬を安易に止めにくい場面があります |
| 術後の止血確認が取れているか | 再開判断はここが出発点になります |
休薬日数を先に探すより、「この患者さんは何が一番危ないか」を先に整理したほうが判断しやすいです。
薬ごとの見方をざっくり整理すると
| 薬剤 | 実務での見方 | 押さえたい点 |
|---|---|---|
| DOAC(Xa阻害薬) | 手技の出血リスクで休薬幅を考える | アピキサバン添付文書では低リスクなら24時間以上、高リスクなら48時間以上あけるのが目安です |
| ダビガトラン | 腎機能の影響をより強く受ける | 同じDOAC感覚で一律に扱わず、腎機能と院内プロトコル確認が大切です |
| ワルファリン | 作用が長く、INR確認が前提 | 術前の止め方だけでなく、術前INRと再開計画まで見ます |
| アスピリン | 一律休薬ではなく適応確認が重要 | 手術前1週間以内は失血量増加のおそれが添付文書にあります |
| クロピドグレル | 出血リスクの高い手術では休薬幅が大きい | 添付文書では血小板凝集抑制が問題となる手術で14日以上前の中止が望ましいとされています |
DOACは「出血リスク」と「腎機能」を先にみる
DOACは便利ですが、周術期では「いつ止めるか」を薬ごとに丁寧に確認したい薬です。たとえばアピキサバンの添付文書では、待機的手術や侵襲的手技の前に、出血低リスクなら前回投与から少なくとも24時間以上、中〜高リスクなら少なくとも48時間以上あけることが示されています。
| DOACで見たいこと | 理由 |
|---|---|
| 薬剤名 | Xa阻害薬か、ダビガトランかで考え方が少し違います |
| 腎機能 | 薬効の残りやすさに影響します |
| 手技の出血リスク | 24時間でよいか、48時間以上みるかの判断材料です |
| 脊椎・硬膜外麻酔の予定 | 出血合併症の重みが変わります |
DOACは「何日前に止めるか」だけでなく、「その患者の腎機能で本当に十分か」を一緒にみるのが大事です。
ダビガトランは同じDOACでも別枠で考えたい
ダビガトランは腎排泄の影響を受けやすいため、Xa阻害薬と同じ感覚で扱うとずれやすいです。病棟実務では、eGFRやCrCl、術式、麻酔計画を見たうえで、添付文書や院内プロトコルを必ず確認したい薬です。
つまり、DOACだから一括りではなく、ダビガトランは腎機能依存がより大きいという意識があると安全です。
ワルファリンはINRと再開計画まで含めてみる
ワルファリンは作用が長く、術前にどこまで凝固能が戻っているかの確認が欠かせません。PMDA掲載の添付文書でも、血液凝固能検査に基づいた投与量調節と管理が前提であること、急な中止で血栓を生じるおそれがあることが示されています。
| ワルファリンで見たいこと | 実務ポイント |
|---|---|
| 適応 | 機械弁、AF、VTEなどで血栓リスクの重みが違います |
| 術前INR | 止めた日数だけでなく、実際の凝固能を確認します |
| 術後の再開予定 | 再開が遅れすぎると血栓リスクが気になります |
| 代替療法の要否 | 必要に応じて主治医、術者、麻酔科で検討します |
ワルファリンは「何日止めるか」より、「INRがどうなっているか」を一緒にみる薬です。
抗血小板薬は「最近のPCI」と「単剤かDAPTか」が大事
抗血小板薬は、単に出血だけでなく、止めたあとの血栓イベントも問題になります。特に最近PCIを受けた患者さんやDAPT中の患者さんでは、薬局や病棟だけで止める判断を完結させないほうが安全です。
| 確認したいこと | 理由 |
|---|---|
| アスピリン単剤か | 手技によっては継続も検討されます |
| クロピドグレルなどP2Y12阻害薬か | 休薬幅が大きくなることがあります |
| DAPT中か | 出血だけでなく、ステント血栓症リスクも考えます |
| PCIやステント留置の時期 | 最近であるほど安易に止めにくいです |
アスピリンは「一律休薬」にしない
バイアスピリン錠100mgの添付文書では、手術、心臓カテーテル検査、抜歯前1週間以内の患者で失血量増加のおそれが示されています。一方で、適応が冠動脈疾患や脳梗塞再発予防である場合、止めることで困ることもあります。
アスピリンは「止める薬」ではなく、「なぜ飲んでいるかを確認してから止めるか考える薬」と捉えると実務に合いやすいです。
クロピドグレルは高出血リスク手術で特に注意
プラビックス錠の添付文書では、血小板凝集抑制が問題となるような手術では14日以上前に中止することが望ましいとされています。また、十分な休薬期間を設けにくい場合は重大な出血リスクが高まること、再投与は手術部位の止血確認後に行うことが示されています。
| クロピドグレルで意識したいこと | 実務での意味 |
|---|---|
| 14日以上前中止が望ましい手術がある | 短めの休薬感覚で扱わないようにしたいです |
| DAPT中か | PCI後の時期では単独判断を避けます |
| 術後再開 | 止血確認後に再開する流れを確認します |
術後再開は「止血確認後、できるだけ早く」が基本
DOACでも抗血小板薬でも、術後は出血がないこと、止血が取れていることを確認したうえで再開を考えます。アピキサバン添付文書では「患者の臨床状態に問題がなく出血がないことを確認してから、可及的速やかに再開」とされていて、この考え方は他薬でも実務上の基本になります。
| 再開前に見たいこと | 理由 |
|---|---|
| 術野出血が落ち着いているか | 早すぎる再開で再出血を避けたい |
| ドレーンや血圧、Hbの動き | 止血が本当に安定しているかの判断材料になります |
| 飲水・内服再開可か | 経口薬をいつ戻せるかに直結します |
| 血栓リスクが高い患者か | 再開の遅れが問題になりやすいです |
再開は「いつから再開できるか」ではなく、「今の止血状態で再開してよいか」で見ると安全です。
緊急手術で慌てやすいポイント
緊急手術では、休薬期間を十分確保できないことがあります。Xa阻害薬で生命を脅かす出血や中和が必要な場合は、添付文書上アンデキサネット アルファが選択肢になりますが、日本循環器学会の2023年9月27日付注意喚起でも、周術期使用では手術内容と出血・血栓リスクを慎重に比較する必要が示されています。
そのため、緊急手術では「いつ止めたか」「最後の服薬時刻」「腎機能」「何をどこまで優先するか」を短時間で共有することが大切です。
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まとめ
周術期の抗凝固薬・抗血小板薬では、DOAC、ワルファリン、アスピリン、クロピドグレルで見方がかなり違います。まずは、適応、手術の出血リスク、腎機能、最近のPCIやDAPTをそろえてから、添付文書や院内プロトコルに落とし込むと判断しやすくなります。
病棟実務では、「何日前に止めるか」だけでなく、「止めて大丈夫か」「いつ安全に戻せるか」をセットで考える姿勢がとても大切です。



