免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を扱う中で、「irAE(免疫関連有害事象)」という言葉に不安を感じたことはありませんか?
副作用の種類が多く、臓器ごとに対応が異なるため、薬剤師としても正確な知識が求められる領域です。
irAEはICIの治療で避けて通れない問題であり、重篤化すると命に関わるケースもあります。
なぜなら、ICIはがん細胞だけでなく、正常な組織にも免疫が過剰に反応してしまう可能性があるからです。
私自身、がん薬物療法に携わる中で、irAEの早期発見と医師・看護師との連携の重要性を何度も痛感してきました。
この記事では、irAEを起こしやすい薬剤の具体例や臓器ごとの主な症状・対処法、薬剤師として知っておくべきポイントについて解説します。
この記事を読むとわかること
- irAEを起こしやすいICI薬剤の一覧
- 臓器別にみた主なirAE症状
- 症状に応じた治療と薬剤選択
- irAEの早期発見のためのポイント
- ステロイドが使用できないケースの代替治療
つまり、irAEに関する薬剤師の対応力を高め、患者安全を守るための実践知識が身につきます。
もくじ
irAEを起こしやすい免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
irAEはICI(免疫チェックポイント阻害薬)によるがん治療において、比較的高頻度に発生します。
代表的なICI薬剤一覧
以下の薬剤がirAEの発現頻度が高いとされています。
分類 | 薬剤名(商品名) |
---|---|
抗PD-1抗体 | ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
抗PD-L1抗体 | アテゾリズマブ(テセントリク)、ドュルバルマブ(イミフィンジ)、アベルマブ(バベンチオ) |
抗CTLA-4抗体 | イピリムマブ(ヤーボイ) |
特に、抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用では重篤なirAEリスクが上昇します。
臓器別にみた主なirAE症状とは?
irAEは全身の臓器に発生しうるため、幅広い知識が必要です。
各臓器でよく見られる症状一覧
臓器・系統 | 主な症状 |
---|---|
皮膚 | 発疹、そう痒、びらん |
肝臓 | 肝炎、胆管炎、肝機能異常 |
腎臓 | 腎炎、腎機能低下 |
血液 | 血小板減少、溶血性貧血、赤芽球癆、無顆粒球症 |
呼吸器 | 間質性肺炎、咳、息切れ |
消化器 | 大腸炎、下痢、腹痛、嘔吐 |
内分泌 | 甲状腺機能異常、副腎不全、下垂体障害、糖尿病 |
神経・筋 | 筋炎、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、脳炎 |
irAEの対処方法と治療方針
治療の基本は重症度評価(CTCAEグレード)に応じたICIの中止・休薬とステロイド投与です。
症状ごとの具体的な対応例
- 皮膚障害:ステロイド外用剤、抗ヒスタミン薬
- 肺障害・筋炎・心筋炎:全身ステロイド(漸減期間は長めに設定)
- 大腸炎:ステロイドに加え、インフリキシマブ併用(止瀉薬は慎重に)
- 肝障害:ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル(インフリキシマブは使用不可)
- 内分泌障害:ホルモン補充療法(ヒドロコルチゾンなど)
- 1型糖尿病:インスリン製剤(ステロイドは使用しない)
ステロイドが効かない場合の対処
ステロイドが効かないケースや重症例では、免疫抑制剤の追加が検討されます。
使用される免疫抑制薬(保険適応外含む)
- アザチオプリン
- タクロリムス
- シクロスポリン
なお、Grade3~4の重症例ではICIの永続的中止が原則です。
irAEの早期発見のために薬剤師ができること
irAEの治療成否は、早期発見と迅速な対応にかかっています。
活用できる評価ツールと視点
- 症状逆引き対応表の活用で、臓器別の初期兆候を把握
- レッドフラッグサイン(例:持続する発熱、急な体重減少、劇症肝炎など)への感度を高める
- 服薬指導時の副作用聴取をルーチン化し、初期兆候を逃さない
irAEの知識を深めて、薬剤師としての対応力を高めよう
最後に、この記事の内容を簡潔に振り返りましょう。
記事の要点まとめ
- irAEはICIによるがん治療で頻発する副作用
- 代表的な薬剤にはニボルマブやイピリムマブなどがある
- 症状は全身の臓器に出現しうる
- 重症度に応じたステロイドや免疫抑制剤が治療の中心
- 内分泌障害や糖尿病など、非ステロイド治療が必要なケースもある
- 早期発見には症状逆引き表やレッドフラッグの理解が有効
薬剤師として、irAEへの理解を深めておくことは、がん患者の安全を守るためにも不可欠です。副作用への対応力を高めることで、医療チーム内での信頼や役割も大きく広がります。