嚥下障害のある患者さんや経管投与が必要な場面で活用される「簡易懸濁法」。
ですが、すべての薬剤にこの方法が適用できるわけではありません。
適さない薬を誤って懸濁すると、薬効の消失、副作用のリスク、投与エラーなど、深刻な問題につながります。
実は、簡易懸濁法に不向きな薬剤には共通した特徴があり、事前に知っておくことで投与事故は防げます。
なぜなら、製剤の性質や成分の安定性は、温度・水・混合の条件に大きく左右されるためです。
私自身、病棟や在宅の現場で「この薬、簡易懸濁していいんだっけ?」という質問を日常的に受けてきました。
即答できる知識があるかどうかで、医療者としての信頼にもつながります。
即答できなくても調べ方を知っているだけでも大きなアドバンテージになります。
この記事を読むと、以下のことがわかります。
- 簡易懸濁法に適さない薬剤とその理由
- 微温湯で懸濁NGな薬剤の具体例
- 懸濁時の温度管理や配合変化に関する注意点
- 現場で迷ったときの確認ポイントとチェック方法
もくじ
簡易懸濁法に適さない薬剤の種類とその理由
薬剤の設計・成分・安定性によって、懸濁不可なケースは多岐にわたります。
以下に分類ごとに代表例と理由を紹介します。
徐放性製剤(CR、SR等)
概要
徐放性製剤は、体内でゆっくり薬効が出るよう設計されていますが、懸濁するとその制御が壊れます。
理由
- コーティングが壊れ、薬が一気に放出
- 副作用・過量投与リスク増大
代表薬剤
- アダラートCR錠
- オキシコンチン錠
- ヘルベッサーRカプセル
- イフェクサーSRカプセル
腸溶錠
概要
胃では溶けず、腸で溶けるよう設計された製剤です。
理由
- 微温湯懸濁でコーティングが破壊され、胃で溶けてしまう
- 有効成分が分解し、薬効が消失 もしくは 胃腸障害等の副作用リスク
代表薬剤
- バイアスピリン錠
- オメプラール錠
- メサラジン腸溶錠
熱に弱い薬剤
概要
55℃前後の微温湯で成分が分解・失活してしまう薬剤があります。
理由
- 温度により薬効成分が不安定になり、効果が減弱または消失
代表薬剤
- シクロフォスファミド
- カリジノゲナーゼ
水に溶けにくい・分散しにくい薬剤
概要
水にほとんど溶けない薬剤は、懸濁しても均一にならず、投与が困難になる場合があります。
理由
- チューブ閉塞や不均一な投与リスクあり
代表薬剤
- 重質酸化マグネシウム
- アスパラカリウム錠
配合変化を起こしやすい薬剤
概要
他剤と混合することで化学反応が起こり、沈殿や薬効低下につながる薬剤です。
理由
- 混合による変色、沈殿、薬効低下リスク
- 単独懸濁が原則
代表薬剤
- レボドパ製剤+鉄剤
- レボドパ製剤+酸化マグネシウム製剤
微温湯での懸濁に特に注意すべき薬剤
概要
通常、簡易懸濁では55℃前後の微温湯が使われますが、この温度に適さない薬剤もあります。
代表薬剤と理由
- タケプロンOD錠(ランソプラゾールOD)
→ 懸濁でマクロゴール6000が凝固し、チューブ閉塞リスク。常温水での懸濁が必要。 - ビオフェルミン配合散
→ 微温湯で凝固・沈殿しやすく、詰まりやすいため注意。
その他の注意すべき薬剤
概要
分類に当てはまらなくても、製剤特性や構造上、懸濁に適さないケースがあります。
注意例
- パナルジン錠:コーティング破壊で薬効・安定性に影響
- タケプロンOD錠:吸湿・熱で凝固しやすい
- グルコン酸K錠:吸湿性が高く、固化しやすい
- サビスミンSRカプセル:チューブ径により閉塞リスク
投与前に薬剤師が必ず確認すべきこと
懸濁可否は製剤やジェネリックごとに異なるため、「確認せずに実施」は厳禁です。
チェックポイント
- インタビューフォームの「粉砕・懸濁に関する記載」
- 簡易懸濁可否一覧表(施設・メーカー・学会等が提供)
- 投与経路(胃か腸か)と投与方法(単独 or 混合)
- ジェネリック変更時は再確認を必ず行う
一覧表で見る:簡易懸濁法に適さない薬剤まとめ
分類 | 不適薬剤例 | 理由(概要) |
---|---|---|
徐放性製剤 | アダラートCR、オキシコンチン | 薬効が一気に出る→危険 |
腸溶錠 | バイアスピリン、オメプラール | 胃で溶けて胃腸障害や薬効消失 |
熱に弱い薬 | シクロフォスファミド、カリジノゲナーゼ | 熱で成分分解の恐れ |
微温湯不適 | タケプロンOD、ビオフェルミン散 | 凝固・閉塞リスク→常温水推奨 |
溶解困難薬 | 酸化Mg、アスパラカリウム | 分散せず閉塞リスク |
配合変化 | レボドパ+鉄/酸化Mg | 沈殿・薬効低下 |
簡易懸濁法を安全に使うためのまとめ
以下に簡潔に要点をまとめます。現場での判断に活用ください。
- 💡 徐放性・腸溶・熱に弱い薬は原則NG
- 💡 タケプロンOD・ビオフェルミン散は温度に注意(常温水推奨)
- 💡 懸濁前にインタビューフォーム・可否一覧で要確認
- 💡 ジェネリック・メーカーごとの差にも注意
- 💡 不明なときは単独懸濁 or 懸濁回避が安全策
嚥下困難な患者さんに安全に薬を届けるためには、製剤知識 × 判断力が不可欠です。
この記事を業務の現場や後輩指導にご活用ください。