バンコマイシンのTDMは、以前の感覚で「まずトラフ値を見る」と考えると、現場で少しずつズレやすくなっています。最近はAUCベースの考え方が基本になっていて、採血のしかたや結果の受け止め方も変わってきました。
今のバンコマイシンTDMは、トラフ値を暗記するより、AUC 400〜600を軸に「いつ・どう採血して、どう調整するか」を流れでつかむことが大切です。
この記事では、2026年4月11日時点で確認できるガイドラインと公的資料をもとに、薬剤師が病棟やDIでまず押さえたい見方をやさしく整理します。

もくじ
まず結論:最初に見るべきポイント
| 見るポイント | 実務での意味 |
|---|---|
| AUC 400〜600に入っているか | 有効性と腎障害リスクの両方を見やすい |
| 1ポイントでよい症例か、2ポイントが必要な症例か | 採血の精度が変わる |
| 初回TDMの時期が適切か | 早すぎても遅すぎても調整がずれやすい |
| 腎機能低下や利尿薬、TAZ/PIPC併用がないか | AKIリスクが上がるため、AUC評価をより重視したい |
迷ったときは、「AUC」「採血の質」「腎機能リスク」の3点を先に確認するとぶれにくいです。
なぜトラフ値だけでは足りなくなったのか
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022では、バンコマイシンの投与設計はトラフベースからAUCベースへ移行しています。背景には、重症・複雑性感染症で有効性を考えるとトラフ15〜20μg/mLが目安になる一方で、その濃度帯は腎障害リスクも上がりやすいことがあります。
| 見方 | 考え方 |
|---|---|
| 以前の中心 | トラフ値を目安に投与設計する |
| 現在の中心 | AUCで有効性と安全性をみる |
| 理由 | トラフ値だけでは有効性と安全性の両立が難しいため |
「トラフが高ければ安心」ではなく、「AUCで適正曝露か」をみる考え方へ変わっています。
バンコマイシンTDMの目標値
| 項目 | 目標 | 補足 |
|---|---|---|
| AUC/MIC | ≧400 | MRSA感染症の有効性を意識する目安です |
| AUC上限 | ≦600 μg・h/mL | 腎障害リスクを下げるために意識したい上限です |
| 実務上の目標AUC | 400〜600 μg・h/mL | 多くの場面でまずここを目標にします |
| 初期投与設計での目標 | 500前後を意識 | 誤差もあるため、初期から上限ぎりぎりは避けたいです |
ガイドラインでは、MICが判明していない初期でも、実臨床ではまずAUC 400以上を目標にみる考え方が示されています。
1ポイント採血と2ポイント採血の使い分け
ベイズ推定を使えば1ポイント採血でもAUC評価は可能ですが、どの症例でも同じ精度でよいわけではありません。特に重症例や腎機能が揺れやすい症例では、2ポイント採血のほうが安心です。
| 場面 | 採血の考え方 | 理由 |
|---|---|---|
| 非重症・非複雑性感染で腎機能が安定 | 1ポイント採血も選択肢 | トラフ値を使ったAUC評価でも許容しやすい |
| 重症・複雑性感染 | 2ポイント採血を優先 | 精度を上げて早く調整したい |
| 腎機能低下、利尿薬使用、TAZ/PIPC併用 | 2ポイント採血を推奨 | AKIリスクが高く、1ポイントでは見誤りやすい |
| 1日1回投与 | 2ポイント採血を意識 | 1ポイント採血では精度がかなり落ちやすい |
病棟で迷いやすいのは、「1ポイントで計算できるか」ではなく「その精度で本当に安全か」です。
初回TDMはいつ行う?
| ケース | 初回TDMの考え方 |
|---|---|
| 軽中等症・非複雑性感染、ソフトなし | 腎機能正常なら4〜5回投与直前、3日目が目安 |
| 重症・複雑性感染、ソフトあり | 定常状態前の3回投与前後で早めの評価を検討 |
| 1日2回投与 | 早期評価は翌日から考えやすい |
| 1日1回投与 | 3日目評価になりやすいが、採血方法の精度に注意 |
ガイドラインでは、トラフは投与前30分以内、ピークは点滴終了1〜2時間での採血が基本です。時間入力がずれるとAUCの評価もずれるので、採血時刻と前回投与終了時刻を丁寧に確認したいです。
初期投与設計で押さえたいこと
バンコマイシンでは、初回のみ25〜30mg/kgの負荷投与が推奨されています。維持量は患者背景や施設プロトコルで調整されますが、腎機能正常例では1回20mg/kgを12時間ごとに投与する考え方が基本のひとつです。
| 項目 | 押さえたいこと |
|---|---|
| 負荷投与 | 初回のみ25〜30mg/kgを検討する |
| 維持投与 | 腎機能、年齢、体格、病態で調整する |
| 初期から高めを狙いすぎない | AUC上限を超えるとAKIリスクが上がりやすい |
| 最終調整 | 実測値を反映したベイズ推定で個別化する |
初期投与設計は出発点であって、TDM結果を反映した個別化まで含めて完成です。
結果をどう読む?現場でのざっくり整理
| 結果のイメージ | 考えたいこと |
|---|---|
| AUC<400 | 有効性不足の可能性があり、増量や投与間隔短縮を検討する |
| AUC 400〜600 | まず目標域。臨床経過と腎機能をあわせてみる |
| AUC>600 | AKIリスクを意識し、減量や投与間隔延長を検討する |
| トラフ高値だがAUCも高い | 単純に高めで安心ではなく、過曝露として読みたい |
特に腎機能低下、利尿薬、TAZ/PIPC併用、ICU管理などがある症例では、トラフが極端に高くなくてもAUC過大になっていないか注意したいです。
ソフトを使うときに見落としやすい点
PAT ver.4.1の操作マニュアルでは、ガイドラインの考え方を前提にしつつ、入力時刻や患者背景の扱いに注意するよう案内されています。
| 見落としやすい点 | 実務での注意 |
|---|---|
| 採血時刻の入力 | 前回投与終了時刻と採血時刻を正確に入れる |
| MICの扱い | MICが1未満でも、運用上は1として扱う前提がある |
| 初期投与設計の自動計算 | 参考値であり、実測値を反映した個別化とは別と考える |
| 腎機能推定 | 高齢、筋肉量低下、ARCでは過大評価・過小評価に注意する |
ソフトを使っていても、入力の前提がずれると評価もずれるので、薬剤師の確認はまだ必要です。
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まとめ
バンコマイシンTDMでは、いまはトラフ値を単独で追うより、AUC 400〜600を軸に評価する考え方が基本です。特に重症例、腎機能低下例、利尿薬やTAZ/PIPC併用例、1日1回投与では、2ポイント採血を含めた丁寧な評価が大切になります。
病棟実務では、目標AUC、採血の質、AKIリスク因子の3点をセットで見ると、結果の解釈がかなり整理しやすくなります。



