「前立腺の薬が増えたけれど、何が違うのですか」。
前立腺肥大症(BPH)の処方では、薬の系統に応じて聞き取る内容が変わります。
α1遮断薬では飲み方やふらつき、デュタステリドでは検査値への影響、タダラフィルでは併用薬と心血管系の病歴を確認します。
3系統の違いを整理したうえで、処方監査の8項目を確認しましょう。
以下は薬剤師が使う確認用シートです。
すべての禁忌や副作用を網羅したものではなく、処方薬ごとの最新の電子添文と患者背景を照合して使います。
確認8項目の一覧へ進む/薬の追加時は疑義照会の実務ガイドも参照してください。
もくじ
前立腺肥大症治療薬3系統の違い
α1遮断薬は前立腺や尿道の平滑筋の緊張を緩め、排尿症状の改善を図ります。
PDE5阻害薬も下部尿路の平滑筋などに作用します。
5α還元酵素阻害薬はジヒドロテストステロンの生成を抑え、前立腺の縮小につながる薬です。
作用の違いだけで治療の優劣や一律の使用順序は決められません。

| 系統 | 代表薬 | まず確認する内容 |
|---|---|---|
| α1遮断薬 | タムスロシン(ハルナールD)、シロドシン(ユリーフ)、ナフトピジル(フリバス)、ウラピジル(エブランチル) | 用法、開始量、ふらつき、射精障害、白内障手術歴と予定 |
| PDE5阻害薬 | タダラフィル(ザルティア) | 硝酸薬などの併用、心血管系の病歴、腎機能と肝機能 |
| 5α還元酵素阻害薬 | デュタステリド(アボルブ) | PSA検査、漏れた薬剤への接触、献血、肝機能 |
日本泌尿器科学会の公式一覧には、2017年の『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』に加え、2020年と2023年のアップデートが掲載されています。
2023年の修正追加は全面改訂ではありません。
治療の推奨を確認するときは本体と修正追加を合わせて参照し、発行年だけで新旧を判断しないようにします。[1]
処方監査で確認する8項目
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 1.販売名と適応 | 何の治療に使う薬か。同一成分や同系統が重なっていないか |
| 2.用法と開始量 | 服用回数、食後の指定、漸増の経過、腎機能と肝機能 |
| 3.射精障害 | シロドシンの副作用説明と相談先を伝えたか |
| 4.ふらつき | 開始や増量後の変化、降圧薬、転倒、夜間の移動 |
| 5.白内障手術 | α1遮断薬の現在と過去の服用歴を眼科へ伝えているか |
| 6.PSAと取扱い | デュタステリドの開始日、検査時の申告、接触、献血 |
| 7.併用禁忌と病歴 | タダラフィルと硝酸薬等の併用、病歴の時期、臓器機能 |
| 8.OAB薬と市販薬 | 排尿困難の変化、残尿評価、新しく使い始めた薬 |
この順番は薬局での確認漏れを減らすための整理案です。
緊急性がある訴えや併用禁忌が見つかった場合は、順番にこだわらず対応を優先します。
1.販売名と適応を照合する
同じ成分でも、製剤によって承認された適応が異なることがあります。
タダラフィルやデュタステリドでは、他院や自費診療で処方された薬も含めて販売名を確認します。
「泌尿器科の薬」「抜け毛の薬」だけでは、成分の重複を判断できません。
ザルティアの承認適応は前立腺肥大症に伴う排尿障害です。
電子添文の「保険給付上の注意」には、それ以外の治療目的は保険給付の対象としない旨が示されています。
アボルブの適応は前立腺肥大症です。
処方目的が不明なときは、薬局側で適応や保険の扱いを決めず、処方元へ確認します。[6][7]
2.α1遮断薬の用法と開始量を確認する
次の表は、掲載した先発製剤を前立腺肥大症に伴う排尿障害に使う場合の通常用量です。
後発品や他の適応へそのまま当てはめず、患者の治療経過も確認してください。
| 薬剤 | 通常の用法と用量 | 実務で確認する点 |
|---|---|---|
| ハルナールD錠 タムスロシン |
0.2mgを1日1回食後。年齢や症状に応じて調整 | 腎機能が低下した高齢者は0.1mgから開始し、経過を観察して0.2mgへ増量。0.2mgで不十分でもそれ以上に増量しない。徐放性粒を含むため、かみ砕かない |
| ユリーフ錠、OD錠 シロドシン |
1回4mgを1日2回、朝夕食後。症状に応じて減量 | 腎機能または肝機能の低下では1回2mgからの開始などを考慮。高齢という理由だけで一律に減量しない |
| フリバス錠 ナフトピジル |
25mgを1日1回から開始。効果不十分なら1〜2週間の間隔で50〜75mgへ漸増。1日1回食後、最高75mg/日 | 新規処方か他院からの継続かを確認し、増量経過とふらつきを照合 |
| エブランチルカプセル ウラピジル |
1回15mgを1日2回から開始。効果不十分なら1〜2週間の間隔で60〜90mg/日へ漸増。朝夕食後に分割、最高90mg/日 | 高血圧症にも適応があり、適応によって用量が異なる。カプセル中の顆粒をかまない |
出典は各製剤の電子添文です。[2][3][4][5]
掲載した4剤はいずれも食後の指定があります。
初回用量との差だけで誤処方と判断せず、転院前の薬や増量日を確認します。
ハルナールD錠は、口の中で崩壊しても徐放性粒をかみ砕かずに飲み込みます。
剤形変更の判断には粉砕や脱カプセルの確認ポイントも使えます。
3.シロドシンの射精障害を説明する
ユリーフの電子添文では、射精障害(逆行性射精等)が17.2%と記載されています。
これは電子添文上の頻度で、個々の患者の発症確率や他剤との直接比較を示すものではありません。
「重要な基本的注意」でも、特徴的な副作用について十分に説明して使用することが求められています。[3]
説明例は「精液が出にくい、量が減ったと感じることがあります。気になる変化や妊娠を希望する事情があれば、医師や薬剤師へ相談してください」です。
「体に害はない」「必ず元に戻る」と一括して説明せず、患者が困っている内容を確認します。
他の患者に聞こえにくい場所など、話しやすい環境にも配慮します。
4.ふらつきと転倒の状況を聞く
α1遮断薬では、起立時の血圧低下やめまいなどに注意します。
開始や増量の時期と、降圧薬の追加時期を薬歴で照合すると、症状の経過を処方医へ伝えやすくなります。
PDE5阻害薬を併用する場合も、血圧低下への注意が必要です。[2][3][4][5][6]
聞き取りでは「立つときにふらつきませんか」「夜のトイレで転びそうになったことはありませんか」と具体的に尋ねます。
症状がある場合は無理に歩かず安全な姿勢をとり、強い症状や意識を失うような場合は速やかな医療対応につなげます。
自己判断での増減や、症状があるままの運転を避けるよう説明します。
夜間の照明や立ち上がり方の相談は、生活上の工夫として提案します。
薬剤調整の代わりにはならないため、他の転倒リスク薬も含めて評価します。
5.白内障手術の前に服用歴を共有する
α1遮断薬には、服用中または過去に服用していた患者で術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)が報告されている旨の記載があります。
IFISは白内障手術中の虹彩の動きなどに関わる問題です。
掲載した4剤の電子添文で確認できます。[2][3][4][5]
薬局では手術予定と過去の服用歴を聞き、お薬手帳や情報提供書で眼科へ伝えます。
中止すれば必ず回避できるとは説明できません。
休薬の必要性や期間は眼科医と処方医が判断するため、患者へ一律の中止を指示しないようにします。
共有文面にはトレーシングレポートの書き方を利用できます。
6.デュタステリドはPSAと取扱い、献血を確認する
アボルブの通常用量は0.5mgを1日1回です。
効果を評価するには通常6か月の治療が必要とされますが、悪化や副作用があっても6か月待つという意味ではありません。
女性、小児等、重度の肝機能障害がある患者などは禁忌です。[7]
| 確認点 | 電子添文や公的情報に沿った説明 |
|---|---|
| PSA検査 | 投与6か月後にPSA値が約50%低下する。6か月以上服用した患者では、測定値の2倍を目安に基準値と比較する。服用期間と値の推移を医師が評価する |
| 検査時の申告 | 投与中のPSA値が持続的に上昇する場合も評価が必要。基準値内という理由だけで安心と判断しない。健診や他院でも薬剤名と開始時期を伝える |
| カプセルの取扱い | かんだり開けたりせず服用。女性や小児は漏れた薬剤に触れない。触れたときは直ちに石けんと水で洗う |
| 献血 | 服用中は献血できず、中止後も6か月間は献血不可。献血のために自己中止しない。可否の最終判断は献血会場の健診医が行う |
PSAの2倍という目安は、服用開始直後やすべての検査指標へ一律に適用するものではありません。
電子添文では、前立腺癌スクリーニングに用いる%free PSAは調整不要とされています。
患者本人に計算して判定してもらうのではなく、検査担当者へ服用情報を伝えることを優先します。[7]
献血について、日本赤十字社の案内では前立腺肥大の薬の欄でもアボルブとデュタステリドを除外しています。
中止後6か月の制限は同ページのデュタステリドの記載で確認できます。[10]
7.タダラフィルの併用禁忌と病歴を確認する
ザルティアでは、硝酸薬や一酸化窒素(NO)供与剤、リオシグアトは併用禁忌です。
ニトログリセリンの舌下薬や貼付薬だけでなく、ニコランジルも対象に含まれます。
定期薬以外の頓用薬も聞き取ります。[6]
| 区分 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 心血管系の禁忌 | 不安定狭心症、NYHA分類III度以上の心不全、コントロール不良の不整脈。血圧90/50mmHg未満の低血圧、安静時血圧170/100mmHg超のコントロール不良の高血圧 |
| 既往の時期 | 最近3か月以内の心筋梗塞、最近6か月以内の脳梗塞または脳出血は禁忌 |
| 臓器機能 | 重度の腎障害または重度の肝障害は禁忌。中等度の腎障害では1日1回2.5mgからの開始などを考慮 |
| 併用薬による用量 | 通常は5mgを1日1回。強いCYP3A4阻害薬の投与中は2.5mgを1日1回から開始し、状態を観察して適宜5mgへ増量 |
上記に加え、成分への過敏症歴も照合します。
腎機能の評価指標は薬剤ごとの電子添文に戻り、CCrとeGFRの確認シートで検査日も共有します。
α1遮断薬との併用は併用注意として血圧低下を確認します。
別のPDE5阻害薬やED治療薬を自己追加しないよう説明し、使用歴があれば処方医へ確認します。
胸痛などで救急受診する際も、タダラフィルの服用と最終服用時刻を医療者へ伝えてもらいます。
8.OAB治療薬と市販薬の追加を確認する
過活動膀胱の薬では排尿困難の変化を追う
前立腺肥大症に過活動膀胱(OAB)が合併すると、別系統の薬が追加されることがあります。
ベシケア(ソリフェナシン)は尿閉がある患者に禁忌です。
下部尿路閉塞疾患がある場合はその治療を優先し、排尿困難がある患者では投与前の残尿量測定や投与中の観察が求められます。[8]
ベタニス(ミラベグロン)にも重大な副作用として尿閉の記載があります。
抗コリン薬との併用時は尿閉などに注意し、血圧上昇にも留意します。[9]
薬局では残尿感だけで残尿量を推定せず、検査を受けたか、薬の追加後に出にくさが増したかを聞き取ります。
詳しい薬剤比較はOAB治療薬の使い分けに分けています。
市販薬は製品ごとの禁止事項と相談事項を確認する
鼻炎用内服薬、かぜ薬、睡眠改善薬などでは、配合成分と排尿困難に関する注意を確認します。
「前立腺肥大症の人は市販薬をすべて使えない」とは説明せず、販売名と症状を照合してください。
例として、鼻炎カプセルA(新新薬品工業、販売:布亀)は、前立腺肥大による排尿困難がある人を服用禁止の対象としています。
クロルフェニラミン、プソイドエフェドリン、ベラドンナ総アルカロイドなどを含む製品です。
単に「相談すれば服用できる」と扱わず、該当する禁止事項を先に確認します。[11]
「前立腺の薬を飲んでいますか」に加え、「尿が出にくいことはありませんか」「最近、市販薬を使い始めましたか」と尋ねると、病名を把握していない患者からも状況を聞けます。
抗ヒスタミン薬の違いも参考になります。
尿が出ない、下腹部の張りや痛みが強い場合は、次回来局まで様子を見ず速やかに医療機関へ相談してください。
薬の影響と決めつけず、薬剤名と症状が始まった時期を伝えます。[12]
薬歴に残す聞き取りメモ
薬剤名だけでなく、確認できなかった点も残すと次回の聞き取りにつながります。
次の項目は薬局内の記録用に調整して使ってください。
- 処方目的、開始日または増量日:
- 用法の実際、腎機能と肝機能の情報:
- 他院薬、頓用薬、市販薬、ED治療薬の有無:
- ふらつき、転倒、排尿困難の変化:
- 白内障手術の予定と過去のα1遮断薬:
- デュタステリドの開始時期とPSA検査予定:
- 患者へ伝えたこと、処方元への確認内容:
- 未確認事項、次回確認する時期:
研修資料やSNSで事例を共有する場合は、患者を特定できる情報を含めないようにします。
よくある質問
α1遮断薬はどれも同じ飲み方ですか
薬によって1日1回か2回か、開始量や増量の規定が異なります。
製剤ごとの用法と、継続処方かどうかを確認してください。
ハルナールD錠はかんで飲めますか
かみ砕かずに服用します。
徐放性粒が含まれるため、口腔内崩壊錠という名称だけで判断しないようにします。[2]
デュタステリド服用中のPSAが基準値内なら安心ですか
数値だけでは判断できません。
服用期間と検査値の推移を検査担当医へ伝え、評価を受けます。
患者自身で2倍換算して良否を判断するよう勧めないでください。[7]
白内障手術前はα1遮断薬を休薬しますか
一律の休薬は案内しません。
過去の服用歴も眼科へ伝え、眼科医と処方医が必要性を判断します。
OAB薬が追加されたら必ず疑義照会が必要ですか
併用そのものだけで判断せず、閉塞への治療、残尿評価、排尿困難の変化を確認します。
新しい症状や確認できない重要事項があれば、その内容を処方元へ伝えます。
ザルティアにED治療薬を追加できますか
自己判断では追加しません。
同系統の重複について、使っている販売名と服用時刻を処方医に確認します。
監査記録を学びとキャリアの棚卸しに使う
電子添文の更新を確認し、患者への質問に落とし込み、必要な情報を処方元へ伝える。
この過程を記録すると、薬理知識を実務でどう使ったか振り返れます。
制度や承認適応を確認する習慣を、次の学習目標や働き方を考える材料にできますが、昇給や転職評価に直結するとまでは言えません。
日々の確認にはPMDAで電子添文を検索する方法を使い、更新情報の収集を補う方法としてm3.comの薬剤師向け活用法も参照できます。
個別の処方判断では、必ず一次資料へ戻って確認してください。
参考資料と確認日
確認日:2026年8月31日。
改訂年月と情報の確認日は別です。
本文の表は一次資料を薬局での確認用に要約したもので、個別患者の治療方針を指示するものではありません。
- 日本泌尿器科学会のガイドライン一覧と修正追加2023の発行案内。本体2017年、アップデート2020年、2023年。
- ハルナールD錠の電子添文。2024年4月改訂、第2版。
- ユリーフ錠、OD錠の電子添文。2026年1月改訂、第3版。
- フリバス錠の電子添文。2026年4月改訂、第2版。
- エブランチルカプセルの電子添文。2023年2月改訂、第1版。
- ザルティア錠の電子添文。2024年11月改訂、第4版。
- アボルブカプセルの電子添文。2025年8月改訂、第2版。
- ベシケア錠の電子添文。2020年11月改訂、第2版。
- ベタニス錠の電子添文。2021年8月改訂、第2版。
- 日本赤十字社「服薬と献血について」。
- 鼻炎カプセルAの添付文書情報。一般用医薬品の資料であり、医療用の電子添文とは区別。
- 厚生労働省「尿閉と排尿困難」患者向け資料。2021年4月改定。

