「用量が微妙にずれているが、意図的か照会すべきか迷う」
「疑義照会したいのに医師に伝わりづらく、電話が長引いてしまう」
「疑義照会を薬歴にどこまで書けば加算算定でも自信を持てるのか」
そんな声を、後輩薬剤師や地域薬局の若手仲間からよく聞きます。私自身、病院薬剤師時代に処方監査を1日100件以上、地域薬局でも管理薬剤師として日々疑義照会を経験してきましたが、疑義照会は「電話するかどうか」より前に、判断基準と伝え方の型があるかどうかで質が決まります。薬剤師法24条は疑義照会を薬剤師の法的義務としており、迷いを減らすためには自分の判断軸を言語化することが近道です。2026年6月改定後は、旧「重複投薬・相互作用等防止加算」ではなく、薬学的有害事象等防止加算などの新しい整理で記録を見る必要があります。記録の質は、患者安全と算定の両方に直結します。
この記事では、疑義照会の判断基準・伝え方(SBAR型)・薬歴への記録の型・関連加算までを、現場でそのまま使えるフローに落とし込みました。薬剤師の現場実務ハブを土台に、日々の処方監査で見落としを減らしたい方向けに整理しています。
疑義照会や調剤報酬改定の続報は、一次情報を確認する前の「気づき」が遅れると現場対応も遅れます。厚生労働省やPMDAを最終確認先にしつつ、医療従事者向けニュースの入口としてm3.com薬剤師会員の情報収集導線を併用すると、制度変更や安全性情報に気づきやすくなります。
先に結論
- 疑義照会は薬剤師法24条で定められた法的義務。「疑わしい点」があれば処方医への確認なしに調剤してはならない。
- 典型的な疑義照会は用量/腎肝機能/相互作用・重複投薬/禁忌・年齢/剤形・投与経路の5系統に分けて監査すると見落としが減る。
- 医師に伝えるときはSBAR型(状況→背景→評価→提案)で1分以内に構造化すると、電話が短く終わる。
- 薬歴には照会内容・回答・処方変更の有無・変更後の指導まで記載し、薬学的有害事象等防止加算などの算定判断に耐える裏付けを残す。
- 調剤前の処方変更が不要で、継続的な情報共有が中心の内容は、疑義照会ではなくトレーシングレポートで医師に返す方が実務に馴染む。
もくじ
疑義照会の法的位置づけ:まず薬剤師法24条を押さえる
疑義照会を語る前に、なぜ薬剤師にこの義務があるのかを確認します。根拠は薬剤師法第24条で、次のように定められています。
薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。(薬剤師法第24条/昭和35年法律第146号)
ポイントは3つあります。第一に、「疑わしい点」の判断主体は薬剤師です。医師が正しいと思っていても、薬剤師が疑わしいと判断すれば照会義務が生じます。第二に、確認するまで調剤自体が禁止されます。「確認前に調剤して、あとから照会」は法令違反となります。第三に、疑義照会は薬剤師の独立した専門判断であり、単に医師の指示を仰ぐ行為ではありません。この位置づけを理解しておくと、後述する伝え方(SBAR型)の必要性が腑に落ちます。
疑義照会が発生する5つの典型パターン
疑義照会を「なんとなく気になる」で止めず、系統立てて監査するために、私は次の5パターンで処方箋を見ています。頭の中でチェックリスト化しておくと、判断が早くなります。

| パターン | 確認する要素 | 照会前に見る一次情報 |
|---|---|---|
| ① 用量・用法 | 常用量超過/不足、頓用回数、分包数、期間 | 添付文書「用法及び用量」、体重・年齢 |
| ② 腎・肝機能に応じた調節 | Ccr・eGFR・Child-Pughに応じた減量が必要な薬剤 | 添付文書「用法及び用量に関連する使用上の注意」、直近の検査値 |
| ③ 相互作用・重複投薬 | 併用禁忌・注意、同効薬の重複、OTC・サプリ含む | 添付文書「相互作用」、薬歴、お薬手帳 |
| ④ 禁忌・年齢・妊婦授乳婦 | 禁忌疾患、小児・高齢者用量、妊娠授乳期の可否 | 添付文書「禁忌」「特定の背景を有する患者」 |
| ⑤ 剤形・投与経路 | 粉砕・脱カプセルの可否、経管投与時の適否、外用と内用の混同 | インタビューフォーム、簡易懸濁法適否表 |
とくに③の相互作用・重複投薬は、疑義照会での処方変更に至った場合、2026年6月以降の薬学的有害事象等防止加算につながりやすい領域です。旧「重複投薬・相互作用等防止加算」の感覚で処理せず、重複投薬・相互作用等防止加算の廃止と新設加算で新しい区分を確認してください。小児用量計算チェックシートや腎機能別の投与量調節と組み合わせると、①②の見落としをさらに減らせます。⑤の剤形判断は粉砕・脱カプセル不可の薬剤を見分ける7つの判断ポイントと経管投与の薬剤選択フローを参考にしてください。
疑義照会の判断フロー:「電話する/しない」を迷わない
疑いを持ったあと、実際に電話するかどうかを迷うケースがあります。私は次の3段階で判断しています。

STEP1|安全性リスクがあるか
禁忌・過量・重篤な相互作用・禁忌疾患など、患者に害が及ぶ可能性があれば即照会します。ここは迷いません。
STEP2|処方意図に合理的説明がつくか
安全性リスクが小さくても、常用量を超えた継続処方や適応外の使い方などは処方医の意図があるはずです。薬歴・診療情報から意図が推定できれば、次回来局時の確認に回すこともあります。ただし推定でも根拠が乏しければ照会します。
STEP3|事後照会・トレーシングレポートで足りるか
安全性リスクがなく、処方意図もほぼ推定できる場合は、事後の情報提供(トレーシングレポート)で医師に返す方法もあります。夜間・休日で連絡がつきにくい局面でも有効です。ただし、調剤前に確定が必要な事項(用量・剤形・投与経路など)は必ず調剤前に照会します。
現場のコツ
「照会するほどではないが記録は残したい」ときは、薬歴のSOAP形式のA(アセスメント)に「今回は照会保留、次回来局時にADR確認・体重再測定」と残しておくと、次回の判断根拠になります。
医師に伝わる疑義照会:SBAR型で1分以内に構造化する
疑義照会が長引く原因の一つは、薬剤師側の伝え方が非構造的であることです。医療現場で使われるSBARを疑義照会に応用すると、要点を短時間で共有しやすくなります。
| 要素 | 内容 | 実例 |
|---|---|---|
| S(Situation) | 誰の処方箋か、何について問い合わせているか | 「本日ご来局のA様、処方箋番号3番の抗菌薬について疑義照会です」 |
| B(Background) | 患者背景(体重・腎機能・併用薬・アレルギー) | 「体重42kg、eGFR38の高齢女性で、他院からワルファリンを継続服用中です」 |
| A(Assessment) | 薬学的評価と懸念点 | 「本剤は腎排泄型でeGFR<50で減量目安があり、ワルファリンとの相互作用でINR上昇の懸念があります」 |
| R(Recommendation) | 薬剤師としての提案 | 「用量を半量にする、または他系統への変更をご検討いただけますでしょうか」 |
SBARの利点は、Rで具体的な提案までセットにすることです。医師は「どうしたらいいですか」と丸投げされるより、「AかBかで判断してください」と選択肢を示された方が判断が早くなります。私が病院薬剤師時代に外科医から「薬剤師からの電話は結論が早くて助かる」と言われたのは、この提案付きの伝え方を徹底していたためです。
薬歴への記録の型:加算算定の裏付けを残す
疑義照会は、記録の質が算定の可否を左右します。2026年6月改定後、旧「重複投薬・相互作用等防止加算」は廃止され、残薬調整は調剤時残薬調整加算、重複投薬・相互作用・副作用回避などは薬学的有害事象等防止加算として整理されています。薬学的有害事象等防止加算は区分により30点または50点で、薬歴等の確認、処方医への照会、処方変更の有無を区別した記録が重要です。算定要件を満たすには、次の要素を薬歴に残す必要があります。
疑義照会の薬歴記載チェックリスト
- 照会に至った経緯(何を根拠に疑ったか)
- 照会日時・照会相手(医師名・医療機関名)
- 照会内容(SBARのSBAまで)
- 薬剤師の提案(SBARのR)
- 医師の回答と処方変更の有無・変更後の内容
- 患者への説明内容と反応
- 次回のフォローアップ計画
とくに「薬剤師の提案」と「医師の回答」を分けて書くのがポイントです。単に「疑義照会し変更となった」だけでは、どの加算区分の根拠なのかが読み取れません。令和8年改定 施行1か月点検で算定漏れ・記録不備を減らすためのチェックリストも合わせて参照してください。
改定・疑義解釈の続報を追う入口
薬学的有害事象等防止加算は、疑義解釈やレセコン運用の更新で現場の処理が変わりやすい領域です。厚生労働省の原典確認を前提に、日々の医療ニュースや薬剤師向け解説を拾う補助線としてm3.comの薬剤師向け活用方法も確認しておくと、見落としを減らせます。
疑義照会とトレーシングレポートの使い分け
疑義照会は「調剤前に確認が必要な事項」に使う手段です。一方、継続モニタリングが必要な情報や、即断を要さない情報は、疑義照会よりトレーシングレポート(服薬情報等提供料の算定対象になり得る)で書面提供する方が現場に馴染みます。
| 場面 | 疑義照会 | トレーシングレポート |
|---|---|---|
| 用量ミスの疑い | ◎ 調剤前に必ず | × |
| 副作用モニタリング結果 | △(重篤なら即照会) | ◎ 経過を書面で共有 |
| アドヒアランス低下 | × | ◎ |
| 禁忌疾患の見落とし | ◎ 即照会 | × |
| OTC・サプリメント併用の報告 | △(重大な相互作用なら照会) | ◎ |
この使い分けを意識するだけで、電話回数を減らしつつ、書面での情報提供実績を積み上げられます。詳細はトレーシングレポートの書き方完全ガイドにまとめています。
疑義照会がしにくい職場のサイン:キャリア視点で見る
ここまで技術面を書いてきましたが、疑義照会は職場の雰囲気に大きく左右されます。次のようなサインがある職場では、疑義照会の質が下がりやすい傾向があります。
- 「医師に電話するな」「疑義は最小限に」という無言の圧がある
- 薬歴記載時間が確保されず、記録が省略されがち
- 疑義照会マニュアルや事例集が薬局内で共有されていない
- 管理薬剤師・上司が疑義照会をサポートせず、若手が孤立している
こうした環境が長期化すると、薬剤師としての判断力そのものが鈍ります。改善が見込めない場合、キャリアの選択肢を並行で持っておくことも重要です。私自身、フリーランス薬剤師として複数職場を経験する中で、疑義照会の頻度・質は職場文化を最も反映する指標だと感じています。転職を検討する際の職場評価軸として、30代薬剤師のキャリア判断表や薬剤師面接回答シートの作り方も参考にしてみてください。
まとめ:型を持つと疑義照会は最速で終わる
疑義照会は薬剤師法24条に基づく法的義務であり、薬剤師の独立した専門判断です。判断を迷わないためには5つの典型パターン(用量/腎肝機能/相互作用・重複/禁忌・年齢/剤形)でチェックし、伝えるときはSBAR型で構造化し、薬歴には算定要件を満たす粒度で記録します。この3点を型にしてしまうのが最短ルートです。2026年6月改定後は、旧「重複投薬・相互作用等防止加算」ではなく、薬学的有害事象等防止加算などの新しい加算区分で確認するため、記録の質を上げるほど、患者の安全と薬局の収益の両方に貢献できます。
継続モニタリングや情報提供にはトレーシングレポートを使い分け、疑義照会は本当に必要な場面に集中させると、電話が短く終わり業務効率も上がります。今日の一件から、SBAR型で伝え、薬歴に提案と回答を分けて書く運用を試してみてください。
制度変更や添付文書改訂は、現場で気づくまでに時間差が出やすい領域です。公式情報を確認する習慣に加えて、m3.com薬剤師会員の情報収集導線を補助的に使うと、疑義照会の背景にある医療ニュースや改定情報を追いやすくなります。
次に読みたい記事
参考にした一次情報
- 薬剤師法(昭和35年法律第146号)第24条/e-Gov法令検索
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「調剤報酬点数表」
- 厚生労働省「調剤報酬点数表に関する事項」
- PMDA 医療用医薬品情報検索

