「肝機能検査値が上がっている。薬が原因かもしれない」と気づいたとき、薬剤師が先にそろえるべきなのは診断名ではなく、医師が判断するための情報です。
薬物性肝障害(DILI)は、症状、検査値の推移、投与開始日と変更日、使用中の医薬品など、鑑別に必要な背景、連絡方法の6項目で共有します。
この記事は、厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害」の最新公開版(令和元年9月改定)をもとに、薬局と病棟で使う初動共有シートへ整理したものです。
2026年8月18日時点の資料状況
厚生労働省が公開している肝臓領域の最新版は令和元年9月改定です。令和7年度全国薬務関係主管課長会議の資料では、「薬物性肝障害」は令和8年度の改定検討予定とされています。公開版が更新されたら、数値や初動手順を再確認してください。
もくじ
薬剤師がそろえる6項目
- 症状:倦怠感、食欲不振、発熱、発疹、かゆみ、黄疸、茶褐色尿、吐き気
- 検査値と推移:AST、ALT、ALP、γ-GTP、総ビリルビン、アルブミン、PT活性またはINR
- 投与開始日と変更日:新規薬、増量、再開、中止後の経過
- 使用中の全製品:処方薬、一般用医薬品(OTC)、漢方薬、サプリメント、健康食品、飲酒状況
- 鑑別に必要な背景:既存肝疾患、感染症、他院受診、過去の肝障害や薬疹
- 連絡方法:緊急の電話連絡か、診察前の非緊急共有か
DILIには特異的な診断マーカーがなく、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、胆道閉塞、虚血性肝障害などを除外して判断します。検査値の型や投与時期だけで、薬剤師がDILIや原因薬を確定するものではありません。
疑義照会の伝え方を整理したい場合は、薬剤師の疑義照会 実務ガイドも参照できます。
検査値は単発値ではなく推移で共有する
厚生労働省マニュアルでは、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型の特徴が示されています。ただし、これは初動で情報を整理するための目安です。正式な病型判定と鑑別は医師が行います。
| 確認対象 | マニュアル上の特徴 | 共有するときの注意 |
|---|---|---|
| 肝細胞障害型 | AST、ALTの上昇が主体で、ALP上昇は基準値上限の2倍を超えない | 施設の基準値上限と投与前値を添える |
| 胆汁うっ滞型 | AST、ALT上昇は基準値上限の2倍以内で、ALPは2倍以上。γ-GTPやビリルビンも上昇し得る | 黄疸がある場合は胆道閉塞などの鑑別が必要 |
| 混合型 | AST、ALT、ALPがいずれも基準値上限の2倍を超える | 採血時点によって型が変わって見える場合がある |
総ビリルビン上昇、アルブミン低下、PT活性低下、INR上昇は重症化を考える材料です。抗凝固薬を服用している患者では、肝予備能の低下がなくてもPTやINRが変化し得るため、薬剤名と経時変化を一緒に共有します。
投与開始日だけで原因薬を決めない
厚生労働省マニュアルでは、多くの症例が薬物服用後60日以内に発症する一方、約20%は90日以降に発症するとされています。代謝性特異体質では、1年以上経過してから発症する場合もあります。
「90日より前に始めた薬だから除外できる」とは判断できません。開始日、増量日、再開日、中止日を並べ、処方薬以外も具体名で確認します。
報告数は発症率ではありません
同マニュアルが引用する2010~2018年の全国調査では、被疑薬553剤のうち感染症治療薬が66剤でした。使用頻度や併用薬の影響を含む集計であり、「感染症治療薬が最も危険」という順位を示す数字ではありません。
マニュアルが引用する別の全国調査では、2010~2016年に発症した急性肝不全と遅発性肝不全の15例で、イソニアジドが被疑薬とされました。抗結核薬は併用されることが多く、単剤で原因を決めつけず、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドなどの開始日と併用状況を一組で共有します。
症状があるときは緊急度を先に分ける
全身倦怠感や食欲不振はDILIの初期症状として挙げられます。発熱、発疹、かゆみ、黄疸、茶褐色尿が出る場合もありますが、無症状で検査値異常から見つかる症例もあります。
| 状況 | 薬剤師の初動 |
|---|---|
| 黄疸、意識変容、出血傾向、強い倦怠感などを認める | 次回受診を待たず、医師へ電話し、速やかな受診の要否を確認する。トレーシングレポートだけで済ませない |
| 検査値異常があり、症状や重症化所見を確認中 | 検査値の推移、投与歴、症状を整理し、当日中の電話相談が必要か判断する |
| 緊急性が低く、次回診察前の情報共有が目的 | トレーシングレポートで時系列と確認事項を共有する |
トレーシングレポートは非緊急の情報共有に使います。書式は、トレーシングレポートの書き方で確認できます。
2~4週ごとの検査は一律ルールではない
厚生労働省マニュアルは、薬物服用開始後2か月間は2~4週に1回の肝機能検査を一般的な早期発見策として勧めています。ただし、個別薬の電子添文に検査時期や中止基準が示されている場合は、その指示と診療計画を優先します。
薬局では、検査を実施したと推測せず、検査日と結果を患者や医療機関に確認します。病棟では、投与前値と直近値を並べ、採血間隔が妥当かを処方薬ごとに確認します。
医師へ渡す初動共有メモ
共有例
「〇月〇日の検査はAST〇〇、ALT〇〇、ALP〇〇、総ビリルビン〇〇、PT活性〇〇%です。〇月〇日の値から上昇しています。〇月〇日に開始または増量した薬は〇〇です。処方薬以外に〇〇を使用し、飲酒は〇〇です。現在は〇〇の症状があります。DILIを含む原因評価と、被疑薬の継続可否、受診時期をご判断ください。」
薬剤師の提案は「中止してください」と確定させず、「継続可否と受診時期をご判断ください」と医師の判断点を明確にします。緊急所見がある場合は、このメモを整える前に電話連絡を優先します。
患者へ伝える言葉
- 強い倦怠感、食欲不振、発熱、発疹、かゆみ、黄疸、茶褐色尿があるときは、放置せず医師か薬剤師へ連絡する
- 自己判断で一律に中止せず、処方医または薬剤師へ連絡して指示を確認する
- 処方薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリメント、健康食品の名称も伝える
- 過去に医薬品で肝障害や薬疹が起きた場合は、薬剤名と経過を伝える
医薬品を適正に使用したにもかかわらず入院治療が必要な程度の健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済制度の対象となる可能性があります。制度の対象は個別に審査されます。薬剤師の記録と患者案内は、医薬品副作用被害救済制度の初動チェックリストで確認できます。
よくある質問
ASTとALTが高ければDILIですか?
ASTとALTの上昇だけではDILIと確定できません。投与時期と経過を確認し、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、胆道閉塞、虚血性肝障害などを除外して判断します。
開始から90日を過ぎた薬は原因候補から外せますか?
外せません。厚生労働省マニュアルでは約20%が90日以降に発症し、代謝性特異体質では1年以上経過後の発症もあるとされています。
DLSTが陰性なら原因薬ではありませんか?
DLSTが陰性でも原因薬を否定できません。一部の漢方薬では偽陽性の報告もあります。DLSTは保険適用外であり、結果だけで原因薬を確定または除外しません。
トレーシングレポートで報告すれば十分ですか?
黄疸、意識変容、出血傾向など緊急性が疑われる場合は不十分です。電話で医師へ連絡し、速やかな受診の要否を確認します。トレーシングレポートは非緊急の共有に使います。
関連する実務記事
継続して確認する情報源
DILIの確認では、電子添文、厚生労働省とPMDAの安全性情報、専門学会の公表資料を優先します。医療ニュースの入口を増やしたい薬剤師は、m3.comの使い方と注意点も参考にできます。記事やサービス内情報は一次情報と照合して使ってください。
まとめ
薬剤師がDILIを疑ったときは、症状、検査値の推移、投与開始日と変更日、服用中の全製品、鑑別に必要な背景、連絡方法の6項目をそろえます。
緊急所見は電話連絡、非緊急の経過共有はトレーシングレポートと分けることが、初動の安全性を高めます。
参考情報
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害」(平成20年4月、令和元年9月改定):PMDA掲載PDF
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」一覧:最新版一覧
- 厚生労働省「令和7年度全国薬務関係主管課長会議 医薬局医薬安全対策課資料」:令和8年度の改定検討予定
- PMDA「医薬品副作用被害救済制度」:制度案内

