演題登録の締切が近づいてから、倫理審査や患者同意の確認漏れに気づいても、間に合わないことがあります。
学会発表の準備は、スライドより先に「投稿要項」「研究倫理」「抄録」「利益相反(COI)」の順で確認するのが安全です。
この記事では、日本薬剤師会学術大会の現行ガイドラインを具体例に、演題登録前から発表後までの確認項目を1枚の準備シートとして整理します。
最初に確認すること
学会ごとに文字数、発表形式、倫理審査、COI、単位の扱いが異なります。この記事の数値は、出典名を明示した箇所だけに適用してください。実際の応募では、参加する学会の最新要項を優先します。
もくじ
学会発表の準備は5つの確認欄に分ける
準備を一つの大仕事として捉えると、期限と確認先が混ざります。
「演題登録前」「抄録」「発表資料」「当日」「発表後」の5欄に分けると、誰に何を確認するかが見えます。
| 確認欄 | 確認する内容 | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 1. 演題登録前 | 締切、発表資格、研究区分、倫理審査、患者同意 | 大会要項、所属施設の責任者、倫理審査窓口 |
| 2. 抄録 | 見出し、文字数、結果、匿名化、医薬品名 | 投稿ガイドライン、共同発表者 |
| 3. 発表資料 | 抄録との一致、COI、図表、引用元 | 発表要項、COI規程 |
| 4. 当日 | 発表時間、データ形式、受付、質疑の記録 | 大会運営からの案内 |
| 5. 発表後 | 証明書類、単位請求、院内共有、論文化の判断 | 認定制度の実施要領、PECS |

演題登録前に研究区分と倫理審査を確認する
最初に決めるのは、スライドのデザインではありません。
日常業務の報告なのか、単一の症例報告なのか、複数症例を比較する研究なのかを整理します。
日本薬剤師会学術大会における症例報告の扱い
日本薬剤師会の2024年12月版ガイドラインは、通常診療における1症例ごとの報告を研究に該当しないものと解釈し、倫理審査は不要としています。
一方、複数症例の経過を比較してデータをまとめる症例集積や、複数症例を合わせて考察する発表は研究に当たり、倫理審査が必要とされています。
「症例報告だから倫理審査は不要」と一律に決めず、症例数と分析方法を示して確認します。
| 発表の形 | 日本薬剤師会のガイドライン上の整理 | 実務で残す確認 |
|---|---|---|
| 通常診療の1症例 | 研究には該当せず、倫理審査は不要との解釈 | 本人または代理人の同意、匿名化、所属施設の規程 |
| 複数症例の比較、症例集積 | 研究に当たり、倫理審査が必要 | 研究計画、審査結果、同意手続、情報管理 |
| 業務改善やアンケート | 内容により判断が分かれる | 対象、収集項目、利用目的を示して倫理審査窓口へ確認 |
単一症例で倫理審査が不要と整理されても、病歴などの要配慮個人情報を利用する場合は、本人または代理人の同意が必要になることがあります。
さらに、所属施設や参加学会が独自の手続を定めている場合があります。
判断記録には、確認日、確認した規程、相談先、結論を残しておくと、共同発表者との認識をそろえやすくなります。
抄録は投稿要項の欄を先に作ってから書く
白紙から文章を書き始めると、結果と考察が混ざりやすくなります。
投稿画面を確認し、指定された見出しと文字数を先にメモします。
日本薬剤師会学術大会の抄録を例にした確認項目
2024年12月版ガイドラインでは、演題名は副題を含め60文字以内、演題要旨本文は1,000字以内とされています。
要旨の項目は、原則として「目的」「方法」「結果」「考察」「キーワード」です。
症例報告では「方法」を「症例(事例)の概要」とし、「結果」と「考察」を「結果及び考察」にまとめることも認められています。
| 欄 | 書く内容 | 確認すること |
|---|---|---|
| 目的 | 何を明らかにする発表か | 背景だけで終わっていないか |
| 方法 | 対象、期間、評価項目、解析方法 | 他者が結果の妥当性を判断できるか |
| 結果 | 実際に得たデータ | 割合には分子と分母があるか |
| 考察 | 結果から説明できる意味と限界 | 希望や感想だけになっていないか |
| キーワード | 内容を表す語 | 同ガイドラインでは5単語以内 |
登録前に機械的に確認できる項目
- 結果が未記載の予告型になっていない
- 目的、方法、結果、考察の対応が取れている
- 医薬品名は原則として一般名を使用している
- 割合に分子と分母を併記している
- 施設名、所在地、患者番号、生年月日、具体的な日付など、個人を特定し得る情報を除いている
- 共同発表者が内容と表記を確認している
統計値を載せる場合も、p値を置けば十分とは限りません。
研究目的と解析方法に合う指標を選び、読者が解釈できる形で示します。確認の土台には、薬剤師向けの論文統計チェックも使えます。
情報収集の位置づけ
医療ニュースや学会の話題を拾う入口としてm3.comなどの医療者向け情報サイトを使う場合も、抄録の根拠は原著論文、公式ガイドライン、電子添文などへ戻って確認します。m3.comの使い方は薬剤師向けm3.com活用記事で整理しています。
発表資料は抄録との一致とCOIを確認する
採択後に追加解析をしたくなる場合でも、演題要旨と異なる発表に変えてよいとは限りません。
日本薬剤師会の投稿規程は、大会当日に演題要旨と異なる内容を発表しないよう定めています。
変更が必要なときは自己判断で差し替えず、大会事務局へ確認します。
COIは参加学会の規程で確認する
日本薬剤師会学術大会では、筆頭演者が発表内容に関するCOIの状態を開示します。
口頭発表ではタイトルの次の2枚目、ポスター発表では最下部などに明示する運用です。
同会が開示対象として示している基準は次のとおりです。
- 報酬、給与、ロイヤリティ、日当、原稿料、講演謝礼、贈与:同一組織から年間100万円超
- 受託研究、共同研究、助成金、寄付金などの研究費:同一組織から年間200万円超
- 株式などによる年間利益:100万円超、または当該企業の全株式の保有率が5%以上
研究費については、共同研究者または発表者が部署の長である場合、当該部署への研究費も申告対象になることがあります。
該当がない場合にも、同会の「開示すべき内容が無い場合」の様式を使います。
ただし、この金額基準と表示位置は日本薬剤師会学術大会の規程です。他学会では、対象者、期間、金額、書式が異なるため、そのまま転用しません。
発表当日は分からない質問を持ち帰ってよい
質疑応答では、短く結論を述べてから根拠を補います。
確認できていない事項を、その場で推測して答える必要はありません。
| 質問 | 答え方 | 発表後の記録 |
|---|---|---|
| 数値や対象の確認 | 結論を答え、該当図表を示す | 誤解された箇所を記録する |
| 方法や限界の指摘 | 限界を認め、今回言える範囲を示す | 追加解析や次回研究の候補にする |
| 未確認の事項 | 現時点では確認できていないと伝える | 確認先と回答を共同発表者へ共有する |
質疑の記録は、発表の評価表ではなく、次の研究計画を作る材料です。
JPECの単位は発表後にPECSで請求する
学会で発表すれば、公益財団法人日本薬剤師研修センター(JPEC)の研修認定薬剤師単位が自動で付くわけではありません。
同センターの研修認定薬剤師制度実施要領(令和7年12月25日一部改正)では、学術集会等発表は、JPECが指定した学術集会の発表者が対象です。共同発表者は除かれます。
自己研修等報告書を提出し、審査で合格と判断された場合に、1報告書につき1単位が付与されます。年間の上限は3単位です。
「発表1回で3単位」ではなく、「1報告書1単位、年間3単位まで」です。
単位請求で用意するもの
- JPECが指定する様式の自己研修等報告書
- 学術集会名、開催日、筆頭発表者であることが分かる要旨
- または、開催日と演題が分かる主催者発行の発表証明書
- PECSから提出するPDF
JPECの手順書は、様式や提出方法が変更される場合があるため、請求の都度、公式ページから最新様式を取得するよう案内しています。
新規認定では、申請日から遡って4年以内に40単位以上が必要です。ただし、学術集会等発表による単位には算入上限があります。
学会発表をキャリアの棚卸しに使う
学会発表の実績だけで、採用や昇進が決まるわけではありません。
一方で、テーマ設定、倫理確認、文献検索、データ整理、共同発表者との調整、質疑対応は、日常業務では見えにくい経験を言語化する材料になります。
発表後は「何を発表したか」だけでなく、「どの工程を担当し、何を改善したか」を記録します。
- テーマと現場課題
- 本人が担当した工程
- 使った一次情報と分析方法
- 質疑で指摘された限界
- 発表後に変えた業務や次の研究課題
制度上の認定要件や職場の支援条件を確認するときは、発表実績だけで判断せず、参加費補助、研究時間、指導者、症例検討の場を並べて比べます。関連する確認項目は、認定薬剤師と職場の支援制度でも整理しています。
演題登録前チェックシート
- □ 最新の大会要項と締切を確認した
- □ 発表者資格と共同発表者の上限を確認した
- □ 研究、単一症例、症例集積、業務報告のどれかを整理した
- □ 倫理審査と同意の要否を、根拠と確認先を含めて記録した
- □ 抄録の見出し、文字数、キーワード数を確認した
- □ 結果が記載され、目的、方法、結果、考察が対応している
- □ 個人を特定し得る情報を除いた
- □ 医薬品名、略語、数値の表記を確認した
- □ 共同発表者が最終稿を確認した
- □ COIの対象者、期間、基準、表示位置を確認した
- □ 発表後に必要な証明書類と単位請求方法を確認した
よくある質問
1症例の発表なら倫理審査は不要ですか?
日本薬剤師会の現行ガイドラインでは、1症例ごとの報告は研究に該当せず、倫理審査は不要との解釈です。ただし、同意、個人情報保護、所属施設の規程、参加学会の要項は別に確認します。
複数症例をまとめる場合も症例報告ですか?
複数症例を比較し、データをまとめたり、合わせて考察したりする場合は、研究として倫理審査が必要になることがあります。症例数だけでなく、分析方法と利用目的を示して判断を仰ぎます。
開示すべきCOIがなければ、スライドは不要ですか?
日本薬剤師会学術大会では、該当がない場合の様式も用意され、口頭発表ではタイトルの次に表示します。他学会では指定が異なるため、参加学会の様式を使います。
共同発表者もJPECの発表単位を請求できますか?
現行のJPEC実施要領では、学術集会等発表の対象は発表者で、共同発表者は除かれます。対象となる学術集会かどうかも含めて確認が必要です。
学会発表でJPECの単位は何単位付きますか?
自己研修等報告書を提出し、審査に合格すると1報告書につき1単位です。年間3単位までで、自動付与ではありません。
確認した一次情報
- 日本薬剤師会「学術大会一般演題(会員発表)投稿規程等」
- 日本薬剤師会「一般演題(会員発表)投稿規程」
- 日本薬剤師会「利益相反(COI)状態の申告について」
- 日本薬剤師会「学術研究に係る利益相反規程」
- 日本薬剤師研修センター「研修認定薬剤師制度 実施要領」
- 日本薬剤師研修センター「PECSによる自己研修等の単位請求方法について」
- 厚生労働省「研究に関する指針について」
一次情報確認日:2026年7月31日。大会ごとの募集要項、倫理審査、COI、認定制度は更新されます。応募または申請の直前に、参加学会と認定機関の公式情報を再確認してください。

