「管理薬剤師になったら役職手当はついたが、残業代が出なくなった」。
この場合、確認するのは肩書きだけではありません。
労働基準法上の管理監督者に当たるかを、実際の権限、働き方、待遇から確認します。
管理薬剤師としての責任が重いことと、時間外割増賃金の規定が適用されないことは、分けて考える必要があります。
厚生労働省の通達にある10項目を、雇用契約書や勤務記録と照らせる形に整理しました。
本稿は雇用されて働く薬剤師を対象にした一般的な制度解説です。
個別の未払い賃金や管理監督者への該当性については、資料をそろえて労働基準監督署や弁護士に相談してください。
もくじ
管理薬剤師と管理監督者の違い
管理薬剤師は、薬機法に基づく薬局の管理者です。
薬機法第7条は薬局を実地に管理する仕組みを定め、第8条は保健衛生上の支障を防ぐための従業者の監督や医薬品の管理などを求めています。
一方、管理監督者は、労働基準法第41条第2号に基づき、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外される労働者です。
厚生労働省は、労務管理について経営者と一体的な立場にあるかを、役職名にとらわれず実態で判断すると説明しています。
| 確認点 | 薬機法上の管理薬剤師 | 労基法上の管理監督者 |
|---|---|---|
| 根拠 | 薬機法第7条、第8条、第9条の2など | 労働基準法第41条第2号 |
| 主な確認内容 | 保健衛生上の管理と、そのための権限 | 職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金等の待遇 |
| 従業者への権限 | 業務を指示し、監督する権限などを明確にする | 採用、人事考課、勤務割表の作成などへの実質的な関与を見る |
| 残業代との関係 | 任命だけでは適用除外は決まらない | 実態が要件に合う場合、法定の時間外割増と休日割増の規定が適用除外になる |
薬機法施行規則第15条の11の2は、管理薬剤師の業務指示と監督、薬局管理に関する権限を明確にするよう求めています。
ただし、この規定だけでは、その人が採用や給与をどこまで決められるか、勤務時間に裁量があるかは分かりません。
管理薬剤師が管理監督者を兼ねる可能性はありますが、任命だけで両者が一致するわけではありません。
薬機法第8条第2項では、管理者は開設者に必要な意見を書面で述べます。
開設者は第9条第2項に基づき、意見を尊重し、必要な措置を講じ、その内容や措置を講じない理由を記録します。
この役割分担は、管理者が労務上の権限を持てないことを意味しません。
薬局管理者の責任は、管理薬剤師になる前のチェック表で別に確認できます。
管理監督者に当たるか確認する10項目
平成20年9月9日付け基発第0909001号は、多店舗展開する小売業や飲食業等の比較的小規模な店舗について、管理監督者への該当性を否定する方向の要素を整理した通達です。
薬局で使う際も、店舗規模や権限の実態を踏まえ、基本的な判断基準と併せて確認します。
薬局全体に一律の判定結果を出す表ではありません。
| 項目 | 確認すること | 該当性を否定する方向の状況 | 通達の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 1 | 採用 | パート等の採用(人選のみも含む)に関する責任と権限が実質的にない | 重要 |
| 2 | 解雇 | パート等の解雇が職務に含まれず、実質的にも関与しない | 重要 |
| 3 | 人事考課 | 評価制度の対象である部下の評価が職務に含まれず、実質的にも関与しない | 重要 |
| 4 | 労働時間の管理 | 勤務割表の作成または所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない | 重要 |
| 5 | 遅刻と早退の扱い | 減給の制裁や人事考課での負の評価など、不利益な扱いを受ける | 重要 |
| 6 | 時間の裁量 | 店舗への常駐や人員不足の穴埋めで長時間労働を余儀なくされ、実際の裁量がほとんどない | 補強 |
| 7 | 部下との働き方の違い | マニュアルに従う業務など、部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占める | 補強 |
| 8 | 基本給と役職手当 | 実際の労働時間を考えると、割増賃金の適用除外に見合う優遇が十分でない | 補強 |
| 9 | 年間賃金 | 勤続年数、業績、専門職種等の特別な事情がないのに、他店舗を含む一般労働者と同程度以下 | 補強 |
| 10 | 時間単価 | 長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価が店舗のパート等の賃金額に満たない | 重要。最低賃金額未満なら極めて重要 |
通達の区分は「重要な要素」が6項目、「補強要素」が4項目です。
これは採点表ではなく、点数や該当数だけで結論を出せません。
特に、健康管理や深夜割増の計算のために出退勤を記録しているだけなら、項目5の否定要素には当たりません。
厚生労働省のQ&Aは、否定要素に該当する場合は管理監督者に該当しない可能性が大きい一方、該当しない場合でも肯定できるとは限らないと説明しています。
気になる項目について、誰が決めるのか、実際にどう運用されているのかを記録するために使ってください。
出典:厚生労働省の通達(参考1)、管理監督者の範囲に関するQ&A。
2008年の監督結果の読み方
通達の参考3には、2008年4~6月に、問題があると考えられる66店舗(53社)を監督した結果があります。
このうち管理監督者として扱われていた人がいたのは55店舗でした。
| 対象 | 人数 | 管理監督者と認められた人 | 認められなかった人 |
|---|---|---|---|
| 店長等 | 55 | 10 | 45人(81.8%) |
| 店長以外の役職者 | 33 | 0 | 33人(100%) |
| 合計 | 88 | 10 | 78人(88.6%) |
割合は公表人数から計算しました。
これは問題が疑われた店舗を対象とする2008年の結果です。
現在の薬局や管理薬剤師全体の割合は示していません。
役職名だけに頼らず、実態を確認する必要性を示す参考資料として読みます。
管理監督者にも適用されること
管理監督者への該当性が認められても、労働法上の保護がすべてなくなるわけではありません。
厚生労働省のパンフレットと労働安全衛生法に基づき、次の点を確認します。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 深夜割増賃金 | 原則22時から翌5時の労働には、通常の賃金の25%以上の深夜割増が必要です。時間外割増とは分けて確認します。 |
| 年次有給休暇 | 一般の労働者と同様、法定の付与要件を満たせば対象となります。 |
| 労働時間の状況の把握 | 労働安全衛生法第66条の8の3の対象に管理監督者も含まれます。健康管理のための時間把握が必要です。 |
| 長時間労働者への面接指導 | 一般の労働者についての法定要件と本人の申出に基づく面接指導の対象に、管理監督者も含まれます。 |
一般の労働者に対する面接指導は、原則として週40時間を超える労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人から申出があった場合に行います。
労働安全衛生規則には直近の面接指導等に関する除外条件もあります。
管理監督者に時間外割増が適用されないことと、健康確保のために労働時間を把握することは別の話です。
手元の書類で確認する5つの手順

1.契約書と給与規程を確認する
労働条件通知書や雇用契約書で、所定労働時間、役職手当、時間外割増、深夜割増の扱いを確認します。
「管理監督者」と書かれているかだけでなく、その根拠として会社がどの権限や勤務実態を想定しているかも確認します。
書面同士の違いは、求人票と労働条件通知書の差分確認シートを使って整理できます。
2.勤務記録と深夜割増を照合する
22時以降の勤務があれば、勤務記録と給与明細を照らします。
明細に独立した項目が見当たらない場合も、それだけで未払いと断定せず、給与規程や計算内訳を確認してください。
タイムカードのほか、業務上の指示や実際の始業と終業が分かる資料も整理します。
3.36協定の労働者代表の選出を確認する
労働基準法施行規則第6条の2は、36協定の過半数代表者が管理監督者でないことを求めています。
代表者は、目的を明らかにした投票や挙手などで選び、使用者の意向に基づいて選出された人であってはなりません。
代表者に選ばれたという事実だけでは、管理監督者でないことの証明にはなりません。
選出自体が不適切な可能性もあるからです。
管理監督者扱いと代表者の役割が重なっていたら、勤務実態と選出手続の両方を確認します。
会社が代表者を指名してよいという意味でもありません。
手続の要件は、厚生労働省の過半数代表者Q&Aで確認できます。
4.時間単価と年間待遇を整理する
時間単価は、同じ期間の賃金額を実労働時間で割ると、待遇を比較する一つの目安になります。
次は、役職手当を含む比較対象の月額賃金を42万円、賞与などは含めないと仮定した単純計算です。
実在する求人の相場ではありません。
| 月の実労働時間 | 計算 | 時間単価(四捨五入) |
|---|---|---|
| 182時間 | 420,000円÷182 | 約2,308円 |
| 183時間 | 420,000円÷183 | 約2,295円 |
| 240時間 | 420,000円÷240 | 1,750円 |
比較するパート薬剤師の時給を2,300円と仮定すると、42万円÷2,300円は約182.61時間です。
したがって、1時間単位の例では183時間の時点で2,300円を下回ります。
「183時間を超えたとき」ではありません。
ただし、この計算だけで管理監督者への該当性や未払い額を判定することはできません。
通達の項目10は、長時間労働を余儀なくされたという実態と併せて確認します。
賞与や諸手当を含む年間待遇、比較する労働者の条件も別に整理してください。
最低賃金との適法な比較には、対象となる賃金の範囲や計算方法、勤務地で適用される最低賃金と発効日の確認が必要です。
上の「月額賃金÷実労働時間」を、そのまま最低賃金違反の判定式には使いません。
給与全体は、薬剤師の年収比較シートで整理できます。
5.権限と運用の違いを記録する
10項目の表に、就業規則等の記載、実際の決定者、具体的な出来事を添えます。
「シフトを作っている」場合も、人数や時間を変更できるのか、本部が決めた内容を入力するだけなのかで実態は異なります。
| 記録する項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 書面の記載 | 職務権限規程では、採用について店長が人選するとされている |
| 実際の運用 | 候補者の決定と面接は本部が行い、店舗は日程の連絡のみ担当している |
| 確認した資料 | 職務権限規程、会社からの業務指示、勤務割表 |
| 会社への質問 | 管理監督者として扱う根拠となる責任と権限を教えてください |
記録には、権限のある範囲で確認できる自分の勤務資料を使います。
他の職員や患者の個人情報を持ち出す必要はありません。
説明と実態が合わない場合は、労働条件の相談窓口を利用できます。
制度見直しの議論との区別
厚生労働省が2025年1月8日に公表した労働基準関係法制研究会報告書は、管理監督者等の健康確保措置の検討と要件の明確化を提言しました。
これは報告書の提言であり、それ自体が新しい残業代の免除条件を設けるものではありません。
本稿の10項目は、厚生労働省の管理監督者案内で確認した2008年通達に基づきます。
公開時や職場の運用見直し時には、厚生労働省の管理監督者に関する案内と現行法令を改めて確認してください。
昇進や職場選びで確認すること
管理薬剤師の役割を引き受けるときは、責任の範囲が変わることに加え、勤務条件や給与の扱いも確認します。
役職手当が増えても時間外割増の扱いが変わるなら、総支給額と実労働時間の両方を比べる必要があります。
増減は、それぞれの賃金額や労働時間によって異なります。
- 管理監督者として扱う予定か。その根拠となる職務と権限は何か
- 採用、人事考課、勤務割表の決定にどの程度関与するか
- 時間外割増と深夜割増をどのように計算するか
まず会社の説明を書面で確認し、現在の条件と比較します。
そのうえで他の職場の情報も集めたい場合は、薬剤師向け転職エージェントの比較も参考にできます。
個別の労働法上の判断は、紹介会社の説明だけで確定せず、必要に応じて専門窓口に相談してください。
よくある質問
管理薬剤師は必ず管理監督者になるのですか?
いいえ。
薬機法上の任命と、労基法上の適用除外は別に確認します。
実際の責任と権限、働き方、待遇から判断します。
契約書に「残業代は出ない」とあれば有効ですか?
契約書の記載だけでは決まりません。
実態が管理監督者の要件を満たさなければ、法定労働時間を超える労働等について、法令に基づく割増賃金の支払が必要です。
具体的な支払額は勤務記録や給与の内訳を基に確認します。
管理監督者なら何時間働いてもよいのですか?
いいえ。
健康を害するような長時間労働をさせてよいわけではありません。
管理監督者も労働時間の状況の把握と、法定要件を満たす場合の面接指導の対象です。
エリアマネージャーや薬局長なら管理監督者ですか?
役職名だけでは判断できません。
複数店舗を担当していても、実際の権限、勤務時間の裁量、待遇などを確認します。
複数店舗の管理薬剤師を兼ねられますか?
薬機法第7条第4項では、薬局の管理者が他の場所で業として薬局管理その他の薬事実務に従事することは原則として認められません。
薬局所在地の都道府県知事の許可を受けた場合の例外があります。
管理監督者への該当性とは別の規定です。
兼務の可否は所管の薬務担当窓口に確認してください。
確認する順番
管理薬剤師の任命、管理監督者への該当性、給与の計算をそれぞれ確認します。
10項目は結論を自動的に出す表ではなく、会社への質問や相談の準備に使うものです。
契約書、実際の権限、勤務記録、給与の内訳をそろえると、どこに説明が必要なのかが明確になります。
参照した一次情報
- 厚生労働省:最低賃金額以上かどうかを確認する方法
- 厚生労働省:最低賃金の対象となる賃金
- e-Gov:薬機法(第7条~第9条の2)
- e-Gov:薬機法施行規則(第15条の11の2)
- e-Gov:労働基準法(第37条、第39条、第41条)
- e-Gov:労働基準法施行規則(第6条の2)
- e-Gov:労働安全衛生法(第66条の8、第66条の8の3)
- e-Gov:労働安全衛生規則(第52条の2、第52条の3)
- 厚生労働省:基発第0909001号(参考1~3、2008年9月9日)
- 厚生労働省:管理監督者の範囲の適正化のために
- 厚生労働省:管理監督者の範囲の適正化に関するQ&A
- 厚生労働省:36協定の過半数代表者に関するQ&A
- 厚生労働省:労働基準関係法制研究会報告書(2025年1月8日)
確認日:2026年9月16日。
法令本文、通達本文と参考資料を照合しました。
2008年の監督結果、2025年の提言、現在の制度説明を区別しています。

