新薬の説明会が終わったあと、電子添文を読み返しても答えが出ない疑問が残ることがあります。「なぜこの用量から始めるのか」「なぜこの検査値の患者だけ除外されているのか」「この副作用は、どのくらい心配して見ればいいのか」。
電子添文は、決まったことを書く文書です。決めた理由までは書いてありません。その理由が書かれているのが、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査報告書です。
ただし分量があります。日本病院薬剤師会の医薬情報委員会は1品目あたりA4版50〜100頁と説明したうえで、最初から読むのではなく「後ろから5分の1」を探す使い方を提案しています。この読み方と、2026年8月時点のPMDAサイトでの探し方を整理します。
もくじ
判断理由を探す起点は「7.R」と「機構は、」
審査報告書の値打ちは、網羅性ではなく、審査を担当したPMDAの専門家と外部専門家が、その薬をどう評価したかが書かれている点にあります。同じ臨床試験データを見ても、電子添文は結論だけを載せ、審査報告書は「その数字をどう解釈して、どこまで許容したか」を残します。
この違いが役立つのは、次の3つのような場面です。
- 用法用量の根拠を知りたいとき(なぜ増量幅がこの刻みなのか)
- 臨床試験で除外された患者層を知りたいとき(腎機能低下例のデータがどこまであるのか)
- 副作用のモニタリング強度を決めたいとき(この検査値異常で中止すべきか、経過観察でよいのか)
有効性、安全性、効能または効果、用法および用量の判断理由は、主に「7.R 機構における審査の概略」と審査報告(2)にあります。薬物動態や相互作用を確認したい場合は、第6章も対象です。日本病院薬剤師会が示した「5〜6頁」は、安全性に関する専門家の評価へ的を絞る場合の目安であり、すべての疑問が同じ頁数で解決するという意味ではありません。
電子添文、インタビューフォーム、RMPとの役割の違い
薬局や病院で日常的に使う医薬品情報源は、それぞれ書かれている内容の性格が違います。審査報告書だけが「審査した側の判断理由」を扱います。
| 情報源 | 書き手 | わかること | わからないこと |
|---|---|---|---|
| 電子添文 | 製造販売業者 | 最終的に承認された使い方と注意事項 | そう決まった理由 |
| インタビューフォーム | 製造販売業者 | 製剤学的な詳細や安定性など補足データ | 規制側の評価 |
| RMP | 製造販売業者(当局と合意) | 重点的に監視するリスクと対応策 | そのリスクをどう評価して決めたか |
| 審査報告書 | PMDA(外部専門家の意見を含む) | 申請内容への評価、議論、結論に至った理由 | 承認後に判明した情報 |
RMPの読み方はRMP(医薬品リスク管理計画)の見方、添付文書との使い分けは添付文書とインタビューフォームの違いで扱っています。
図1 同じ薬について、4つの文書が答える問い
📄 電子添文
「結局、どう使うのか」
📘 IF
「製剤としてどんな性質か」
🛡 RMP
「何を重点的に見るのか」
🔍 審査報告書
「なぜそう決まったのか」
4つは競合しません。電子添文で疑問が残ったときに、審査報告書へ降りていく順序で使います。
審査報告書の構成と、読む場所
審査報告書は、審査報告(1)と審査報告(2)に分かれています。審査報告(1)は申請企業が提出した資料の概要とPMDAの結論、審査報告(2)は外部専門家との専門協議を経た最終的な議論の結果です。
現行の審査報告書には、提出資料の概要とPMDAの検討が章ごとに並びます。実例として、9章で構成されるキイトルーダ点滴静注の審査報告書(2024年8月16日付、全65頁)の目次と頁配分を見てみます。
| 章 | 開始頁 | 現場での使いどころ |
|---|---|---|
| 1 起原又は発見の経緯及び外国における使用状況に関する資料等 | p.4 | 海外承認の有無と国内開発の背景 |
| 2 品質に関する資料及び機構における審査の概略 | p.5 | 製剤の規格や安定性の議論 |
| 3〜5 非臨床薬理、非臨床薬物動態、毒性試験 | p.5 | 作用機序と動物での毒性所見 |
| 6 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験 | p.6 | 相互作用、腎肝機能別のPK |
| 7 臨床的有効性及び臨床的安全性に関する資料並びに機構における審査の概略 | p.6〜50 | まずここを読む。用量設定、副作用の評価、効能効果の範囲 |
| 8 適合性調査結果及び機構の判断 | p.50 | 申請資料の信頼性に関する調査結果 |
| 9 審査報告(1)作成時における総合評価 | p.50 | この時点での結論 |
| 審査報告(2)(専門協議結果、製造販売後の安全対策、総合評価) | p.50以降 | 次にここを読む。専門家が最後まで議論した論点がわかる |
頁数はキイトルーダ点滴静注100 mgの審査報告書(2024年8月16日付)の実測値です。品目により分量は変わりますが、章の順序はおおむね共通です。
この報告書では、品質と非臨床の記載が6頁までにあり、臨床の章が50頁まで、審査報告(2)がその後ろに続きます。日本病院薬剤師会の医薬情報委員会は、安全性に関する専門家の評価を探すときの目安として「後ろから5分の1あたり」から読む方法を紹介しています。品目によって頁配分は異なるため、最初に目次を確認します。
章番号の「.R」が機構の見解を示す
審査報告書を読むうえで、実用的な手がかりが章番号の付け方です。各章のうち、枝番に「.R」が付く節には、提出資料に対するPMDAの検討と判断が記載されます。「7.R 機構における審査の概略」がそれで、このキイトルーダの報告書では次のように細分されています。
- 7.R.1 審査方針について
- 7.R.2 有効性について
- 7.R.3 安全性について
- 7.R.4 臨床的位置付け及び効能・効果について
- 7.R.5 用法・用量について
- 7.R.6 製造販売後の検討事項について
「.R」が付かない節は、主に申請者が提出した資料の概要です。読み手が知りたいのが「審査した側がどう判断したか」であれば、PDF内検索で「7.R」と入力すると該当箇所を絞れます。
図2 疑問から読む場所へたどる順序
STEP 1
電子添文で疑問が残った箇所を一文で書き出す
STEP 2
PDFを開き、目次で第7章と審査報告(2)の位置を確認する
STEP 3
PDF内検索で「7.R」、または副作用名や検査値名を直接引く
STEP 4
「機構は、」で始まる文を読む。ここが審査側の判断
STEP 5
最新の電子添文と照合し、確認日と実務への影響を記録する
通読を前提にせず、問いに対応する検討と判断を探します。該当文だけで結論を出さず、前後の説明を読み、最後に最新の電子添文へ戻ります。
「機構は、」を検索して判断部分だけを拾う
もうひとつの手がかりが、文中の主語です。審査報告書では、申請者の主張を紹介したあとに、「機構は、」で始まる文でPMDAの評価が示されます。PDF内検索で「機構は、」と入力すると、判断が書かれた箇所だけを順に拾えます。先ほどのキイトルーダの報告書では、この書き出しが24箇所ありました。
続く内容は、大きく3通りに分かれます。
- 申請者の説明を受け入れた:「機構は、申請者の説明を了承した」
- 条件を付けて受け入れた:「機構は、〜については、製造販売後調査において引き続き検討する必要があると考える」
- 受け入れず変更を求めた:「機構は、上記のように効能・効果及び効能・効果に関連する注意の項を設定するよう申請者に求め」といった形で、申請時の記載が変更されている
3つ目が見つかったときは、電子添文の記載を読み直します。申請時と承認時の文言の差には、審査で整理された対象範囲や条件が反映されています。差があることだけを「安全性上の懸念」と決めつけず、変更理由と最終的な承認内容を対応づけます。
朝礼やDIメモへ残す5項目
審査報告書を読んだ結果は、文書名だけでなく、判断に使った箇所と最新情報の照合結果まで残すと再確認しやすくなります。
- 確認した問い:電子添文のどの記載に疑問が残ったか
- 対象文書:販売名、審査報告書の日付、確認日
- 判断箇所:「7.R」または審査報告(2)の該当見出し
- 確認結果:PMDAの判断を自分の言葉で短く要約
- 最新情報との照合:電子添文の改訂年月と、院内または薬局で共有する内容
PMDAサイトでの探し方
2026年8月時点で、審査報告書は次の2つの経路からたどれます。
経路1:医療用医薬品 情報検索から品目名で探す
日常業務ではこちらが早い経路です。
- PMDAの「医療用医薬品 情報検索」(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)を開く
- 「一般名・販売名」に品目名を入力する
- 「検索結果一覧で表示する文書を選ぶ」を開き、「審査報告書/再審査報告書/最適使用推進ガイドライン等」にチェックを入れる
- 検索し、結果一覧を右にスクロールして該当列のリンクからPDFを開く
同じ画面の右側にある「特定の文書の記載内容から調べる」では、検索対象の文書に「審査報告書/再審査報告書等」を選んで全文検索ができます。品目名がわからないまま「この副作用について審査でどう議論されたか」を横断的に調べたいときは、こちらを使います。
経路2:承認品目一覧から年度単位で探す
新薬が承認されたというニュースを起点に追う場合は、PMDAの「新医薬品の承認品目一覧」から年度別のページに入る経路が使えます。承認日、販売名、成分名がPDFとExcelで一覧になっているので、承認からしばらく経った品目をまとめて確認するときに向いています。
承認直後の品目については、掲載まで時間差が生じることがあります。PMDAは審査報告書を承認後速やかに、申請資料概要を承認後3か月以内を目途に掲載するとしています。承認直後に見つからない場合は、PMDAの新医薬品承認品目一覧で販売名と承認日を確認し、後日あらためて検索します。
薬局と病院での使いどころ
採用検討と院内の安全使用策づくり
新薬を採用するかどうかを薬事委員会で検討するとき、審査報告書には、電子添文の注意喚起が生まれた背景が残っています。用量制限だけで安全対策として十分なのか、それとも累積投与量や投与期間の管理まで必要なのか。専門協議で議論された論点を見ておくと、院内ルールの粒度を決める材料になります。
副作用モニタリングの論点を拾う
審査報告書には、臨床試験で検査値異常がどのくらい発生し、どのような経過をたどったか、その結果をPMDAがどう評価したかが記載されることがあります。これは処方提案の論点を整理する材料です。休薬や中止の判断は、最新の電子添文、適用されるガイドライン、患者の状態を確認して行います。
疑義照会の材料を厚くする
適応や用量が処方内容と合わないとき、承認審査でその範囲が定まった経緯は、疑義照会の論点を整理する補助資料になります。審査報告書だけを根拠に適応や用量を広げず、最新の電子添文を基準に確認します。調査結果を共有する型は薬局DIメモの作り方で扱っています。
読むときに気をつけること
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 承認時点の情報である | PMDAも、最新の添付文書と併せて読むことを求めています。承認後の改訂内容は反映されません |
| マスキングがある | 個人を識別できる情報、個人の権利利益を害するおそれのある情報、法人の権利や競争上の地位を害するおそれのある情報は伏せられています |
| 複製や転載に条件がある | 申請資料概要と、製造販売業者が権利を持つ内容を含む審査報告書は、自機関内での使用を超える無断複製や転載などが制限されています。共有資料では必要な範囲の要約と出典表示を基本にします |
| すべての品目にあるとは限らない | 公開対象は薬事審議会の部会審議品目と部会報告品目です。通常の後発医薬品には、新有効成分と同じ形の審査報告書はありません。ただしバイオ後続品は審査報告書が公開されます |
| 分量に幅がある | 公知申請に基づく迅速審査の品目では、目次が数項目のみの短い報告書になることがあります。この場合は通読が現実的です |
関連文書として押さえておきたい最適使用推進ガイドライン
新規作用機序を持つ医薬品の一部には、承認審査と並行して最適使用推進ガイドラインが作成されます。対象となる患者の要件と、使用する医療機関の要件が示される文書で、内容を踏まえた保険適用上の留意事項通知が別に出されます。
審査報告書と同じ検索画面から確認できます。対象品目では、審査報告書と併せて患者要件や施設要件を確認し、保険適用上の取扱いは関連通知を別に照合します。制度側の通知を確認する手順は厚労省の告示、通知、疑義解釈の探し方にまとめています。
新薬情報を追い続けるための情報源
審査報告書は、疑問が生まれたときに引く文書です。そもそも「どの新薬に疑問を持つべきか」を知るには、承認情報や副作用情報が流れてくる状態を先に作っておく必要があります。
PMDAの更新を定期的に確認するほか、薬剤師向け医療情報サイトを補助的に使う方法もあります。サービスの利用条件や配信内容は変わるため、現在の機能を確認して選びます。m3.comを候補にする場合の確認事項は、次の案内に整理しています。
📮 新薬の情報が「流れてくる」状態を作る
PMDAの一次情報を基準にしつつ、更新に気付くための補助経路を決めておくと、審査報告書を確認するきっかけを作れます。
審査報告書を読む技能とキャリア
審査報告書から規制側の判断を追う技能は、現場のDI業務だけでなく、学術、薬事、臨床開発でも使われます。職種名だけで転職先を選ぶのではなく、求人票や面談で「一次情報の評価」「問い合わせ対応」「承認資料の確認」が実務に含まれるかを確認します。
- DI業務、学術:問い合わせ対応で、電子添文の記載の背景まで答えられる
- 製薬企業のメディカル部門、薬事:審査で何が論点になるかを理解している
- CRA、CRC:試験デザインと評価項目の意味を読み解ける
制度文書を読む力が現在の業務にどう生きるかを整理したうえで、職務内容を比較します。製薬企業と治験関連職の業務は薬剤師の製薬企業キャリアガイドと治験業界のCRO、CRCキャリアガイドで整理しています。
よくある質問
Q. 後発医薬品の審査報告書はありますか
通常の後発医薬品については、新有効成分含有医薬品と同じ形の審査報告書は公開されません。公開対象が薬事審議会の部会審議品目と部会報告品目に限られるためです。この場合、同等性はインタビューフォームの生物学的同等性試験の項で確認する経路になります。
一方、バイオ後続品は審査報告書が公開されます。先行品との同等性や同質性がどこまで示されたと判断されたのかを追えるので、切替えの相談を受けたときの材料になります。バイオ後続品と後発品の違いはバイオシミラーとジェネリックの違いで整理しています。
Q. 審査報告書とインタビューフォームは、どちらを先に見ればよいですか
製剤の性質(安定性、配合変化、粉砕の可否)を知りたいならインタビューフォームが先です。臨床データの解釈や、用法用量が決まった理由を知りたいなら審査報告書です。問いの種類で分かれます。
Q. 英語の資料を読む必要はありますか
審査報告書の本文は日本語です。国内の承認内容を確認する基本作業は日本語で進められます。海外の規制当局による評価や原著論文まで比較する場合は、英語の文書も確認します。
Q. どのくらいの頻度で読むものですか
毎回読む文書ではありません。院内や薬局で新規に採用する品目が出たとき、電子添文で判断がつかない疑義照会が発生したときなど、疑問が具体的になった時点で引く使い方が現実的です。
現場で使う5ステップの確認順
- 審査報告書は、PMDAと外部専門家が申請内容をどう評価したかが読める文書です
- 目次で「7.R」と審査報告(2)の位置を確認し、問いに対応する見出しへ移動します
- PDF内検索で「機構は、」を引き、前後の説明を含めて審査側の判断を読みます
- 探し方は、PMDAの医療用医薬品 情報検索で「審査報告書/再審査報告書/最適使用推進ガイドライン等」にチェックを入れる経路が最短です
- 最後に最新の電子添文と照合し、確認日と実務への影響を記録します
電子添文で止まっていた疑問が、審査報告書の一文で解けることがあります。次に新薬の説明会で引っかかった点があったら、その品目名で一度検索してみてください。
参考にした一次情報
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「審査報告書・申請資料概要」https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0020.html(2026年8月28日確認)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「医療用医薬品 情報検索」https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/(2026年8月28日確認)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「新医薬品の承認品目一覧」https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0010.html(2026年8月28日確認)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「最適使用推進ガイドライン(医薬品)」https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0028.html(2026年8月28日確認)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「キイトルーダ点滴静注100 mg 審査報告書」2024年8月16日 https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240927003/170050000_22800AMX00696_A100_1.pdf(2026年8月28日確認)
- 一般社団法人日本病院薬剤師会 医薬情報委員会「病院薬剤師業務への審査報告書の利活用について(1)」2015年12月14日 https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20151214-1.pdf(2026年8月28日確認)

