患者の家族から残った医療用麻薬を返却されたとき、期限切れの在庫に気づいたとき、調剤中にアンプルを破損したときでは、薬局が取る手続きが異なります。
どれも「廃棄する麻薬」ですが、最初に確認するのは廃棄方法ではありません。
処方箋により調剤された麻薬か、調剤前の在庫か、事故が起きた麻薬かを分けてから、届出、立会い、帳簿の順に確認します。
この記事では、薬局の麻薬小売業者と管理薬剤師が使える確認順を、厚生労働省と自治体の現行資料に沿って整理します。
もくじ
麻薬を廃棄する前に3分類する
薬局で廃棄対象が発生したら、次の3分類から始めます。
| 発生したこと | 主な手続き | 届出の時期 | 立会い |
|---|---|---|---|
| 陳旧、変質、汚染、調剤過誤などで使用できない | 麻薬廃棄届 | 廃棄前 | 麻薬取締員等 |
| 麻薬処方箋により調剤され、患者や家族から返却された | 調剤済麻薬廃棄届 | 廃棄後30日以内 | 当該薬局の他の薬剤師または職員 |
| 滅失、盗取、破損、所在不明などの事故が起きた | 麻薬事故届 | 速やかに | 状況に応じて所管へ確認 |
同じ「破損」でも、調剤過誤で使用できなくなった在庫と、アンプルを落として内容液を失った事故では確認する届出が変わります。
分類に迷うときは廃棄を先に進めず、品名、規格、数量、発生時刻、経緯を記録して所管の保健所または都道府県薬務主管課へ確認します。

陳旧品や調剤過誤は事前に麻薬廃棄届を出す
古くなった麻薬、変質や汚染で使用できない麻薬、調剤過誤により使用できなくなった麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法第29条に基づく事前届出の対象です。
薬局が独自に廃棄日と方法を決めるのではなく、麻薬廃棄届を提出し、麻薬取締員等の指示に従って廃棄します。
帳簿には廃棄した品名、数量、年月日を記載します。
備考欄には届出年月日を記載し、廃棄に立ち会った職員から署名または記名押印を受けます。
廃棄前の共有メモ
- 品名、剤形、規格、数量
- 使用できなくなった理由
- 発見日時と発見者
- 麻薬帳簿上の残高
- 所管へ確認した日時、担当部署、確認内容
- 使用する届出様式と提出方法
東京都の現行案内では、麻薬廃棄届の提出時に麻薬帳簿と廃棄対象の麻薬を持参する運用が示されています。
提出先や持参物は自治体で異なるため、薬局所在地を所管する自治体の案内を確認してください。
患者から返却された調剤済麻薬は廃棄後30日以内に届け出る
患者の症状変化、処方変更、服用困難、死亡などにより、調剤済みの麻薬が患者や家族から返却されることがあります。
麻薬小売業者(薬局開設者)または管理薬剤師が廃棄し、当該薬局の他の薬剤師または職員が立ち会います。
廃棄には、麻薬を回収することが困難な適切な方法を用います。
その後、廃棄日から30日以内に調剤済麻薬廃棄届を提出します。
30日以内であれば、その期間の複数の廃棄を一つの届出書へまとめることができます。
返却された麻薬は在庫残高へ加えない
大分県の2026年6月版マニュアルは、患者から返却された数量を受入欄へ記載するとき、通常の購入数量と区別できるよう括弧を付ける例を示しています。
返却された麻薬は、帳簿上の残高には加えません。
備考欄には返却の経緯が分かる記録を残し、廃棄年月日、調剤済麻薬廃棄届の提出年月日、立会者の署名または記名押印を記録します。
外来患者から返却された麻薬は、品質や未開封かどうかにかかわらず再利用せず、すべて廃棄します。
| 記録する場面 | 残す内容 |
|---|---|
| 返却受付 | 返却者(患者、家族等)の氏名、品名、規格、数量、返却日 |
| 廃棄 | 廃棄日、廃棄方法、実施者、立会者 |
| 届出 | 調剤済麻薬廃棄届の提出日、提出先 |
| 帳簿 | 返却数量を通常在庫と区別し、残高へ加えない |
帳簿とは別に廃棄用の補助簿を設ける方法も認められています。
薬局内でどちらへ記録するかを統一し、担当者が変わっても提出期限を追える形にします。
破損、盗取、所在不明は麻薬事故届を確認する
麻薬に滅失、盗取、破損、所在不明などの事故が生じた場合は、麻薬事故届を速やかに提出します。
盗取の場合は警察署への届出も必要です。
帳簿の備考欄には事故届を提出したことを記載し、届出の写しを保管します。
アンプル破損時の確認
厚生労働省の「薬局における麻薬管理マニュアル」では、アンプル注射剤の事故に伴って残った麻薬を廃棄する場合、麻薬事故届へ経過を詳しく記載すれば、麻薬廃棄届または調剤済麻薬廃棄届を別に提出する必要はないと示されています。
事故の状況によって扱いが変わり得るため、廃棄前に所管へ連絡し、指示と対応経過を記録してください。
調剤事故と過誤の初動対応フローでは、患者確認、記録、報告の順を整理しています。
麻薬廃棄を5項目の共有シートで引き継ぐ
廃棄実務は、届出書を提出した時点では終わりません。
帳簿、届出控え、立会い、次回の期限確認が同じ記録から追える状態にします。
- 対象:品名、剤形、規格、数量、製品番号(確認できる場合)
- 発生:日時、場所、経緯、発見者
- 分類:事前届出、調剤済麻薬、事故のどれか
- 対応:所管への確認、届出日、廃棄日、実施者、立会者
- 記録:帳簿または補助簿、届出控え、次の確認日
患者名などの個人情報を含む記録は、薬局の管理ルールに従って保存し、外部共有用の資料へ転記しません。
制度を知っていることより、発生時に同じ確認順で動ける手順と記録を残せることが、管理薬剤師の実務力になります。
日常管理は保管庫と帳簿を別に確認する
麻薬小売業者が所有する麻薬は、薬局内の鍵をかけた堅固な設備に保管します。
現行マニュアルが示すのは、麻薬専用の固定した金庫または容易に移動できない重量金庫です。
手提げ金庫、スチール製ロッカー、事務机の引き出しは麻薬保管庫として扱えません。
麻薬保管庫には、麻薬以外の医薬品、現金、麻薬帳簿を含む書類を一緒に入れません。
ただし、当日の出し入れを管理する棚表は例外として示されています。
出し入れのとき以外は施錠し、鍵を保管庫へ付けたままにしないようにします。
麻薬帳簿は品名、剤形、規格ごとに口座を分け、受け払いの都度記載します。
帳簿の訂正は判読できるよう二本線などで抹消し、正しい内容と訂正印を残します。
修正液や修正テープは使用しません。
麻薬小売業者には、麻薬帳簿を最終記載日から2年間保存する義務があります。
日常点検の頻度は法令に一律の月次や週次と書かれているわけではありません。
薬局の業務手順書で確認頻度と担当者を決め、帳簿残高と在庫現品を定期的に照合します。
患者や家族には自宅で処分せず返却先を伝える
在宅療養で医療用麻薬を交付するときは、残薬が出た場合の連絡先も伝えておきます。
説明例
「この薬が残った場合は、ご家庭のごみや排水へ捨てず、調剤を受けた薬局または交付を受けた医療機関へご連絡ください。薬の名前と残っている数を確認し、返却方法をご案内します」
家族が医療用麻薬をほかの人へ譲ったり、自己判断で処分したりしないよう、処方開始時と残薬確認時に短く繰り返します。
厚生労働省の「医療用麻薬適正使用ガイダンス 令和6年」は、不要になった医療用麻薬を調剤した薬局や病院などへ持参し、処理を依頼するよう患者や家族へ指導するとしています。
在宅患者訪問薬剤管理指導料の実務と、がん性疼痛コントロールの薬剤師向けガイドも、在宅での確認項目を整理するときに参照できます。
様式と提出方法は所管自治体の現行ページを使う
2024年12月12日施行の改正法と関係省令に伴い、麻薬廃棄届の様式は一部変更されています。
過去に保存したWordファイルを複製せず、提出時点で所管自治体が掲載する現行様式を取得します。
大分県の麻薬管理マニュアルは2026年6月に改訂され、東京都の麻薬廃棄届ページも現行様式と提出時の持参物を案内しています。
自治体によって窓口、受付方法、必要な持参物が異なるため、他県の記載例だけで提出準備を完了させないでください。
オンライン提出の可否も所管へ確認する
厚生労働省は2025年12月12日付け通知で、法第29条の麻薬廃棄届、法第35条第1項の麻薬事故届、同条第2項の調剤された麻薬の廃棄届を、オンライン手続が可能な申請や届出として列挙しました。
この通知は自治体への技術的助言であり、すべての自治体が同じ受付方法を導入したことを示すものではありません。
窓口、郵送、電子メール、自治体のオンライン申請システムのうち、実際に利用できる方法を所管の現行案内で確認します。
制度や安全管理情報を継続して確認する入口
m3.comなどの医療情報サービスは、制度変更や安全管理情報に気づく入口として使えます。
届出の判断と様式は、法令、厚生労働省、薬局所在地を所管する自治体の原資料で確認します。
よくある質問
調剤済麻薬廃棄届は複数件をまとめられますか
廃棄後30日以内であれば、その期間の複数の廃棄を一つの届出書へまとめて差し支えないとされています。
それぞれの廃棄日、品名、数量、立会者を追える記録は個別に残します。
患者から返却された麻薬は在庫残高へ加えますか
加えません。
返却数量は通常の受入れと区別できるよう記載し、廃棄日、届出日、立会者を帳簿または補助簿へ残します。
調剤過誤で使用できない麻薬はどの届出ですか
厚生労働省と大分県のマニュアルでは、調剤過誤により使用できなくなった麻薬は、事前の麻薬廃棄届による廃棄例として示されています。
廃棄前に所管へ確認し、麻薬取締員等の指示に従います。
アンプル破損では麻薬事故届と麻薬廃棄届の両方が必要ですか
厚生労働省の「薬局における麻薬管理マニュアル」は、アンプル注射剤の事故について、事故届へ経過を詳しく記載する場合は別の廃棄届が不要としています。
事故ごとの状況を所管へ連絡し、指示を記録してください。
麻薬廃棄届の様式は全国で同じですか
法令上の様式は定められていますが、提出先、受付方法、持参物、自治体の案内は同じとは限りません。
オンライン提出に対応しているかどうかも含め、薬局所在地を所管する自治体の最新ページで確認します。
薬局で持ち帰る確認順
- 廃棄前に、陳旧品等、調剤済麻薬、事故の3つへ分類する
- 陳旧品や調剤過誤は事前に麻薬廃棄届を提出する
- 患者から返却された調剤済麻薬は、薬局内で立会いのもと廃棄し、30日以内に届け出る
- 滅失、盗取、破損、所在不明は麻薬事故届を速やかに確認する
- 返却麻薬は帳簿残高へ加えず、廃棄日、届出日、立会者を記録する
- 様式と提出方法は所管自治体の現行案内で確認する
麻薬廃棄で必要なのは、処分方法を暗記することではありません。
発生した事実を記録し、廃棄区分を確認し、届出と帳簿を同じ流れで閉じることです。
一次情報
- e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」
- 厚生労働省「薬局における麻薬管理マニュアル」
- 厚生労働省「麻薬の廃棄に係る事務処理について」
- 厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス 令和6年」
- 厚生労働省「規制改革実施計画等を踏まえた申請等手続のオンライン対応について」
- 厚生労働省「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の施行等について」
- 大分県「医療機関等における麻薬、向精神薬、覚醒剤原料管理について」
- 大分県「薬局における麻薬管理マニュアル」令和8年6月版
- 東京都保健医療局「麻薬廃棄届」
本記事は2026年7月28日に上記の一次情報を再確認しました。個別事例の届出区分、提出先、提出方法、廃棄方法は、廃棄前に薬局所在地を所管する保健所または都道府県薬務主管課へ確認してください。

