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薬剤師の副業と労働時間の通算|勤務先に確認する8項目

薬剤師の副業と労働時間。勤務先に確認する8項目。契約、勤務記録、健康確保

「土曜だけ別の薬局で働きたい」。副業を始めるときは、契約の形、本業と副業の勤務時間、休息を取れる予定になっているかを一緒に確認します。
労働時間を通算するかどうかと、社会保険や労災保険で何を合算するかは、別々の判断です。

この記事では、厚生労働省の資料をもとに制度を8項目で整理し、勤務先へ持参できる確認シートを用意しました。
対象は主に民間の薬局や医療機関で働く薬剤師です。公務員としての兼業許可、個別の労働者性、未払い賃金の判断は、勤務先や所管窓口で確認してください。

副業の種類を整理する段階の方は、薬剤師の副業ガイドもあわせてご覧ください。

雇用か業務委託かは、契約名と実態を確認する

労働基準法第38条第1項では、事業場が異なる場合も労働時間に関する規定を通算して適用します。
厚生労働省の解釈通達では、事業主が異なる場合も含み、両方で労働時間規制が適用される労働者に該当する場合が対象です。

別の薬局で雇用されるパート勤務や、派遣元と雇用契約を結ぶ派遣勤務は、通常この確認が必要です。
一方、労働者に当たらない独立した事業として記事執筆や講師業を請け負う時間は、この通算の対象になりません。

契約書に「業務委託」と書かれていても、それだけでは決まりません。
仕事の依頼を断れるか、業務の進め方や勤務時間の指示を受けるか、報酬の性質など、働き方の実態から判断されます。
記事監修や講師という職種名だけで、必ず業務委託になるとも言えません。
詳しくは厚生労働省の労働者性の判断基準を確認してください。

副業開始前に、契約の実態、両方の勤務記録、健康と保険を確認する3ステップ。管理薬剤師は兼務制限も確認する
勤務先へ相談する前に、契約書と勤務記録をそろえます。

労働基準法上の管理監督者など、労働時間規制が適用されない場合もあります。
薬局の「管理薬剤師」という肩書だけで管理監督者になるわけではありません。
学校薬剤師など任用や委嘱による仕事は、任用形態と適用される規定を個別に確認します。

出典:厚生労働省の解釈通達(第1~第3)、労働基準法。

通算や合算の扱いを8項目で整理する

項目 複数の勤務先がある場合の扱い 相談時に確認すること
1.法定労働時間 労働時間規制の対象となる勤務は通算 原則1日8時間、週40時間。適用される制度と起算日も確認
2.時間外労働と休日労働の上限 通算後の時間外労働と休日労働の合計で確認 単月100時間未満、2~6か月の各平均80時間以内
3.時間外の割増賃金 通算によって法定時間外となる時間について、各使用者が自ら働かせた分を支払う 契約の順序、所定労働時間、実際の所定外労働
4.36協定の限度時間など 事業場ごとに確認する 原則月45時間、年360時間など。通算後に自社で時間外となる分も確認
5.休憩、休日、年次有給休暇 それぞれの事業場で適用を判断する 本人が実際に休める日や時間も別に確認
6.健康診断等の対象者の選定 副業先の労働時間を足すだけでは判定しない 各事業場で対象かを確認し、全体の働き方を踏まえた健康確保も相談
7.労災保険 複数就業者の給付額の算定には賃金等を合算する扱いがある 給付の種類と要件を確認。業務の過重性も複数事業場を総合評価する場合がある
8.健康保険と厚生年金 複数の事業所で被保険者となる場合、報酬月額を合算して標準報酬月額を決める 加入要件は事業所ごと。該当時は本人による二以上事業所勤務届

通算の対象や方法は、解釈通達、健康確保と労災はガイドラインQ&Aの2-1、3-1~3-3、社会保険は日本年金機構の手続き案内で確認できます。

割増賃金は、契約の順序と日々の勤務で確認する

原則的な通算では、まず労働契約を結んだ順に所定労働時間を足します。
その後、所定外労働時間を実際に働いた順に足します。
通算した結果、自社で法定労働時間を超える勤務をさせる使用者が、その時間について割増賃金を支払います。

たとえば、両社とも通常の1日8時間、週40時間制で、週の起算日が同じとします。
先に契約した本業で月曜から金曜に1日8時間、計40時間を実際に働き、後に契約した副業先で土曜に8時間働くなら、副業先の8時間が法定時間外となる例です。
土曜は副業先の法定休日ではなく、変形労働時間制などの特別な計算はないものとします。

副業先の割増算定の基礎となる時給が2,500円、割増率が25%なら、時間外勤務8時間の賃金は2,500円×1.25×8時間=25,000円です。
これは条件を置いた計算例であり、求人票の時給に割増が含まれるかどうかは別途確認します。

週の合計が40時間以下でも、1日の合計が8時間を超えれば時間外になる場合があります。
本業を週4日にしただけで、副業の割増が必ずなくなるわけではありません。

また、一定の業種で常時10人未満の労働者を使用する事業場には週44時間の特例があります。
変形労働時間制を採用している場合も、単純な週40時間との差し引きでは判定できません。
それぞれの事業場に適用される制度を確認してください。

根拠:厚生労働省の原則的な通算方法、Q&Aの「法定労働時間が異なる事業場」の例、奈良労働局の所定労働時間の解説。

副業の上限は「80時間から本業の残業を引く」だけでは決まらない

通算して確認する上限は、時間外労働と休日労働の合計について、単月100時間未満と、2~6か月それぞれの平均80時間以内です。
本業の当月残業だけでは計算できず、副業先での勤務、法定休日の労働、過去の実績も必要です。

次の表は平均の違いを示すための仮の数値です。
両社を通算した時間外労働と休日労働の合計が、直近6か月で次のとおりだったとします。

5か月前から当月までの合計時間 当月を含む平均の確認 この例から分かること
60、60、60、60、60、90時間 2か月平均75時間。3~6か月平均も80時間以内 当月90時間でも、平均の要件だけを見れば満たす例
60、60、60、60、90、90時間 2か月平均90時間 単月が100時間未満でも、平均の要件を満たさない例

どちらの例も、その勤務を認めてよいかは各社の36協定、実際の勤務制度、健康確保などを別に確認する必要があります。
100時間未満を「99時間が上限」と丸めたり、80時間との差を一律の副業可能時間としたりはできません。
これらの数字は、働く時間を増やす目標ではありません。

勤務先には給与明細だけでなく、日ごとの勤務記録と、当月を含む6か月分の集計を示して相談します。
業務委託の時間が労働基準法上の通算対象外でも、疲労や睡眠不足が解消するわけではありません。
本業の残業が多いときは、副業を追加する前に勤務と休息の調整を相談してください。

根拠:労働基準法第36条第6項、改正後の労働基準法の施行通知。表の数値は編集部の計算例です。

管理薬剤師は、薬機法の兼務制限も確認する

薬機法第7条第4項では、薬局の管理者は原則として、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事できません。
薬局所在地の都道府県知事の許可を受けた場合の例外があります。
別の薬局での勤務を考える場合は、労働時間の計算とともに、所管の薬務担当窓口へ事前に確認します。

管理薬剤師であることと、労働基準法上の管理監督者に該当することは別です。
役職名だけで通算や残業代の対象から外れると判断しないでください。
詳しくは管理薬剤師の残業代と管理監督者の確認に整理しています。

記事執筆や講師業が薬事に関する実務に当たるか、兼務が認められるかは、個別の仕事内容と自治体の取扱いを確認します。
根拠は薬機法第7条第4項です。

管理モデルを使う場合の合意事項

厚生労働省の「管理モデル」は、複数勤務先の労働時間を管理する負担を軽くする方法です。
先に契約した使用者Aの法定外労働時間と、後に契約した使用者Bの労働時間に、それぞれ上限を設定します。
両者を合わせた単月と複数月平均の要件、各事業場の36協定の範囲を守る必要があります。

基本的なモデルでは、Aは自社の法定外労働、Bは自社の労働時間全体に割増賃金を支払います。
ただし、Aで法定外労働が生じない場合などにはQ&Aで例外的な取扱いも示されています。
「管理モデルなら全員、すべての時間に同じ割増」とは決めず、導入への合意、上限、割増の扱いを書面で確認しましょう。

資料:管理モデルの解説、Q&Aの管理モデル1-13。

健康診断の対象と、全体の健康確保を分けて考える

健康診断等の実施対象者を選ぶ際は、原則として副業先の勤務時間を足して判定する扱いではありません。
まず各事業場で対象になるか確認します。
対象者にならないことは、健康への負担が小さいことを意味しません。

厚生労働省は、副業の状況を踏まえて労使で話し合い、必要な健康確保措置を取ることを示しています。
使用者の指示で副業を開始した場合には、両方の時間を把握して健康確保措置を実施することが適当とされています。
睡眠、実際に休める日、体調を確認し、勤務を調整する窓口を決めておきましょう。

労災保険では、複数就業者の給付額を算定する際に複数就業先の賃金等を合算する仕組みがあります。
業務の過重性は、まず個々の事業場で評価し、それだけで認定できない場合には複数事業場の負荷を総合評価する扱いです。
特別加入者が対象となる場合もありますが、業務委託の報酬全額がそのまま合算されると考えず、加入と給付の条件を確認してください。

出典:ガイドラインQ&Aの2-1、3-1、3-2。

社会保険と雇用保険は加入要件から確認する

健康保険と厚生年金は、事業所ごとに加入要件を確認します。
両方で被保険者となる場合は報酬月額を合算し、標準報酬月額と保険料を決めます。
本人が事実発生から10日以内に「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、加入先の健康保険組合への手続きが必要になる場合もあります。

雇用保険は、原則として主たる事業所で週の所定労働時間20時間以上、31日以上の雇用見込みなどの要件を確認します。
たとえば65歳未満で、どちらの勤務先も週20時間未満の場合、合計が20時間以上になっただけでは加入できません。
片方の事業所で通常の要件を満たす場合とは分けて判断します。

65歳以上には雇用保険マルチジョブホルダー制度があります。
それぞれ週5時間以上20時間未満の2事業所を合計して週20時間以上、両方で31日以上の雇用見込みがあるなどの条件を満たし、本人がハローワークへ申し出る制度です。

出典:日本年金機構、厚生労働省の雇用保険マルチジョブホルダー制度。
関連する働き方の条件は薬剤師の年収の壁も参考にしてください。

2026年の見直し議論と現行制度

2026年9月16日の第211回労働条件分科会の資料は、副業時の健康確保などを今後議論する案を示しています。
これは、労働時間の通算が廃止されたことを示す資料ではありません。
本稿は2026年9月30日に確認した法令本文と厚生労働省の現行案内に基づいています。

見直しに関する報道を見た場合は、議論の案、成立した法令、施行日を分けて確認してください。
参照:第211回資料No.2-1、厚生労働省「副業・兼業」。

勤務先へ持参する8項目の確認シート

勤務を引き受ける前に、次の欄を本業と副業先で確認します。
個人の勤務記録や契約書は、公開の共有シートに載せず、勤務先が指定する方法で扱ってください。

確認項目 書き留める内容 確認先
1.兼務の制限 管理薬剤師か、公務員等の身分上の制限があるか 薬務担当窓口、勤務先
2.副業の手続き 就業規則の届出や許可手続き、回答日 本業の担当者
3.契約と実態 雇用か業務委託か、契約日、指揮命令の実態 両方の契約担当者
4.日と週の時間 所定勤務日、日ごとの時間、週の起算日、適用制度 両方の労務担当者
5.月ごとの実績 当月と直前5か月の時間外労働、休日労働、集計の起算日 両方の労務担当者
6.割増と管理方法 割増の計算方法、申告方法、管理モデルの有無 両方の労務担当者
7.健康確保 睡眠と休息、健康診断の対象、勤務調整の相談先 勤務先の健康管理担当者
8.保険と手続き 各事業所の加入要件、該当する届出、期限 勤務先、年金事務所、ハローワーク

月の集計には「対象月/本業の時間外と休日労働/副業先での通算後の時間外と休日労働/合計/2~6か月の各平均/確認日」を記録します。
所定内、所定外、法定時間外の区分を混ぜず、判断できない部分は労務担当者に確認してください。

よくある質問

副業先に本業の勤務時間を伝えますか?

厚生労働省は、使用者が本人の申告等により副業の有無や内容を確認する方法を示しています。
所定勤務日と時間、所定外労働の見込み、実績の伝え方を両方の勤務先と決めておきましょう。
申告の有無や把握状況による具体的な取扱いは解釈通達を確認します。

業務委託なら本業の副業規程を確認しなくてよいですか?

確認は必要です。労働時間の通算対象かどうかと、就業規則上の手続きは別です。
副業を禁止や制限できるかは、本業への支障、秘密保持、競業など個々の事情も踏まえて判断されます。
規程だけで一律の可否を決めず、不明点を担当者へ相談してください。

副業先から割増は払わないと言われたら?

必要な法定割増を、合意だけでなくすことはできません。
ただし、まず適用される労働時間制度と通算結果、既に払われている賃金の内訳を確認します。
契約書と勤務記録をそろえて、勤務先や労働基準監督署へ相談してください。

本業の休日に副業をしてもよいですか?

本業の法定休日に他社で働いても、本業側では休日を与えた扱いになります。
ただし、副業先の労働時間規制や勤務先の規程、本人の休息は別に確認が必要です。
休日を通算しないことだけで、勤務全体に問題がないとは判断できません。

健康診断は両方の勤務先で受けるのですか?

各事業場で実施対象かを確認します。
他の勤務先等で受けた健診結果の扱いも含め、勤務先の健康管理担当者へ確認してください。
どちらでも対象にならない場合も、全体の勤務と健康状態を踏まえて必要な対応を相談します。
根拠:労働安全衛生法第66条第5項等の条文抜粋。

勤務条件を見直すときの考え方

制度を確認すると、副業を始める前に本業の勤務を調整したい場合もあります。
まず、残業を減らせるか、勤務日を調整できるか、休息を確保できるかを現在の職場で相談します。
そのうえで他の働き方も比較する場合は、時給だけでなく所定労働時間、実際の残業、副業の手続きを同じ項目で確認しましょう。

情報収集の手段として、薬剤師向け転職エージェントの比較も利用できます。
転職を前提にする必要はありません。紹介会社の説明に加えて、最終的な労働条件通知書と就業規則で確認してください。

確認日:2026年9月30日。
本稿は一般的な制度の整理です。個別の労働者性、兼務許可、賃金請求の結論を確定するものではありません。

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