「薬剤師はこれから余る」と「病院は薬剤師が足りない」。
どちらも厚生労働省の資料に書かれていることで、片方が間違っているわけではありません。
2つの話は、測っている物差しが違います。
本記事では、国が出している3つの資料、①薬剤師の需給推計(2021年)、②薬剤師偏在指標(2023年)、③医師・歯科医師・薬剤師統計(令和6年、2025年12月公表)を並べて読みます。
そのうえで、自分のキャリアを考えるときに確認したい6項目を、後半のシートにまとめました。
先に結論
- 総数:2021年公表の需給推計では、当時からおおむね10年間は需要と供給が同程度で、その後は供給が需要を上回ると見込まれています。2026年から10年間という意味ではありません
- 業態:偏在指標の全国値は病院0.80、薬局1.08。病院は47都道府県すべてで目標の1.0を下回っていました
- 実数:令和6年の届出薬剤師数は329,045人。2年前と比べて薬局は3.5%増、病院は1.8%増、医薬品製造販売業・製造業は6.5%減でした
- 「余るか、足りないか」は、総数・業態・地域のどれを見るかで答えが変わります
病院と薬局の仕事の中身や年収の違いは、病院薬剤師と薬局薬剤師の比較シートで10項目に分けて整理しています。
本記事は、その手前にある「人数の見通し」を扱います。
もくじ
3つの資料は何を測っているか
| 資料 | 測っているもの | 時点 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 薬剤師の需給推計 | 全国の総数の需要と供給 | 2020年から2045年までの推計(2021年6月公表) | 将来、供給が需要を上回る |
| 薬剤師偏在指標 | 業態別・地域別に、必要な業務時間に対する実際の労働時間の比 | 令和2年の届出データなどで算定(2023年公表) | 病院は全国的に足りず、薬局は地域差が大きい |
| 医師・歯科医師・薬剤師統計 | 届出のあった薬剤師の実数(従事先・年齢・都道府県) | 2年ごと。最新は令和6年12月31日現在 | どの業態で人が増え、どこで減ったか |

需給推計は「全国で何人必要か」、偏在指標は「どこの何が足りないか」、統計は「実際に何人いるか」を示します。
1つの資料だけを読んで「余る」「足りない」と判断すると、自分の働く業態や地域とずれることがあります。
需給推計:総数は将来「過剰」の見込み
厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」は、2021年6月30日公表のとりまとめで、2045年までの需給推計を示しました。
推計値は次のとおりです。
| 区分 | 2045年の推計 | 前提 |
|---|---|---|
| 需要 | 33.2万〜40.8万人 | 下限は業務が推計当時と同程度と仮定した機械的な推計、上限は業務の充実などの変動要因を考慮した推計 |
| 供給 | 43.2万〜45.8万人 | 上限は国家試験合格者数が近年並みで続く推計、下限は人口減少を考慮した推計 |
供給の下限(43.2万人)が、需要の上限(40.8万人)を上回っています。
2021年のとりまとめは、当時の見通しとして「概ね今後10年間は、需要と供給は同程度で推移する」としたうえで、将来は業務の充実で需要が増えると仮定しても供給が需要を上回り、薬剤師が過剰になるとしています。
同じ文書には、読み落とせない但し書きが2つあります。
- 業務の充実や資質向上の取組が行われない場合は需要が減り、供給との差が一層広がる
- 2021年のとりまとめ時点では地域偏在などにより、特に病院を中心として薬剤師が充足しておらず、不足感が生じている
つまり「過剰」は、全国の総数を将来について見たときの話です。
需要の幅(33.2万〜40.8万人)は、薬剤師業務がどこまで充実するかで変わる前提になっています。
なお、2026年2月の第111回薬剤師国家試験の合格者は8,749人でした。
偏在指標:病院は47都道府県すべてで1.0未満
2023年3月の検討会で薬剤師偏在指標の算定方法と値が示され、同年6月には厚生労働省が都道府県向けに「薬剤師確保計画ガイドライン」を通知しました。
人口10万人あたりの薬剤師数では、医療の需要や病院・薬局の違い、性別・年齢・勤務形態が考慮されていないため、新しい物差しとして作られたものです。
薬剤師偏在指標=調整薬剤師労働時間÷薬剤師の推計業務量
供給側の調整薬剤師労働時間を、需要側の推計業務量で割った値です。勤務形態・性別・年齢分布などを考慮した算定値であり、各職場の労働時間をそのまま集計した実測値ではありません。病院と薬局で別々に算定します。両者が等しいときの「1.0」が、業態や地域によらない全国共通の目標値とされています。
| 指標 | 全国値 | 都道府県の最大 | 都道府県の最小 |
|---|---|---|---|
| 病院薬剤師偏在指標 | 0.80 | 京都府 0.95 | 秋田県 0.56 |
| 薬局薬剤師偏在指標 | 1.08 | 東京都 1.42 | 富山県 0.82 |
病院の指標は最も高い京都府でも0.95で、1.0に届いた都道府県はありません。
薬局は全国値こそ1.0を上回りますが、都道府県の間で1.42から0.82まで開きがあり、薬局でも1.0を下回る県があります。
検討会資料には、指標の全国値を「病院0.80<薬局1.08」と並べた記載があります。
ガイドラインでは、目標を下回る地域のうち下位2分の1を「薬剤師少数区域」、目標を上回る地域を「薬剤師多数区域」とし、二次医療圏ごとにも区域を設定します。
計画期間は原則3年で、2036年までに偏在の是正を達成することを長期目標としています。
検討会資料は、現在は多数の都道府県でも、高齢化による医療需要の増加などで将来は少数になりうる(逆もありうる)としています。
注意したいのは、指標の算定に使われたのが令和2年の届出データなどで、ここで紹介した値は2023年公表資料に基づくという点です。2026年11月4日に厚生労働省の薬剤師確保対策ページを確認し、本記事は同ページで案内されている2023年資料を用いています。
自分の地域の最新の区域設定は、都道府県が公表している薬剤師確保計画で確認します。
三師統計:令和6年に増えた業態、減った業態
医師・歯科医師・薬剤師統計(以下、三師統計)は、薬剤師法に基づく2年ごとの届出を集計したものです。
令和6年12月31日現在の届出薬剤師数は329,045人で、前回(令和4年)より5,355人、1.7%増えました。
女性が62.0%を占めます。
| 主な従事先 | 令和6年 | 令和4年からの増減 | 平均年齢 |
|---|---|---|---|
| 薬局 | 197,437人 | +6,702人(+3.5%) | 46.8歳 |
| 病院 | 57,595人 | +1,010人(+1.8%) | 42.5歳 |
| 診療所 | 5,695人 | −183人(−3.1%) | 58.4歳 |
| 介護保険施設 | 1,217人 | +126人(+11.5%) | 59.7歳 |
| 医薬品関係企業 | 34,184人 | −2,902人(−7.8%) | 49.1歳 |
| うち製造販売業・製造業 | 24,102人 | −1,684人(−6.5%) | ― |
| うち店舗販売業 | 5,090人 | −1,056人(−17.2%) | ― |
| 大学 | 5,011人 | +109人(+2.2%) | 48.6歳 |
| 衛生行政機関・保健衛生施設 | 6,906人 | −21人(−0.3%) | 43.1歳 |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」表15・表16。平均年齢の「医薬品関係企業」は内訳を含む全体の値

表から読み取れることを4つに分けます。
1. 薬局の増加数は全体の純増数を上回る
総数の増加5,355人に対し、薬局は6,702人増えています。
薬局の内訳では、開設者・法人代表者(管理者を兼ねる人)が12,591人で996人(7.3%)減り、管理者以外の勤務者が132,085人で6,420人(5.1%)増えました。
10年前の平成26年と比べると、薬局は161,198人から197,437人へ22.5%、医療施設(病院・診療所)は54,879人から63,290人へ15.3%増えています。
2. 病院も増えたが、偏在指標の差は別に見る
病院の従事者は2年で1,010人増えました。
ただし偏在指標の全国値0.80は、算定時点で、推計業務量に対する調整薬剤師労働時間の比が0.80であることを示す数字です。
統計の増加分だけで、この差が埋まったかどうかは判断できません。
3. 企業の届出は減っている
医薬品関係企業は2,902人(7.8%)減り、なかでも店舗販売業は1,056人(17.2%)減りました。
統計は届出時点の「主に従事している施設・業務」を集計したもので、減少の理由までは示していません。
企業への転職を考える場合は、職種ごとの求人の状況を個別に確認します。
4. 29歳以下は2年前より減った
薬局・医療施設に従事する29歳以下は33,498人で、2年前より685人(2.0%)減りました。
一方、70歳以上は804人(6.2%)増えています。
施設別に29歳以下の割合を見ると、病院は16.7%、薬局は12.0%で、この集計では、病院従事者のほうが29歳以下の割合が高くなっています。
病棟業務や在宅、対人業務の評価は、診療報酬・調剤報酬の改定などで変わります。
制度の動きは、医療ニュースを継続して追うと把握しやすくなります。
情報源の選び方はm3.comの使い方とメリット・デメリットにまとめています。
キャリアへの影響:統計を自分の判断に落とす6項目
3つの資料は、国や都道府県が政策を考えるための資料です。
個人の転職や異動をそのまま決めるものではありません。
ここでは「統計で分かること」と「自分で確かめること」を分けて、6項目のシートにしました。
| No. | 確認項目 | 見る資料 | メモ欄の例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 今の(希望する)業態は、総数ではなく業態別に見て増えているか | 三師統計 表15 | 病院+1.8%/企業−7.8% |
| 2 | 働く地域は、病院・薬局それぞれで少数区域か多数区域か | 都道府県の薬剤師確保計画 | 二次医療圏名と区分 |
| 3 | その地域に確保策(就業支援、復職支援、奨学金の補助など)があるか | 都道府県・県薬剤師会・県病院薬剤師会の案内 | 対象・条件・期限 |
| 4 | 需要を増やす側の業務(病棟、在宅、対人業務など)の経験を積めるか | 需給推計の前提、職場の業務分担 | 担当できる業務と時期 |
| 5 | 職場の年齢構成と、自分の10年後の役割 | 三師統計 表16、職場の人員表 | 同世代・上の世代の人数 |
| 6 | 統計の傾向と、実際の求人条件が一致しているか | 求人票・労働条件通知書 | 給与・人員・当直・異動 |
項目1と2で「足りない業態・地域」に当たる場合でも、その職場の給与や人員配置が良いとは限りません。
人手不足の病院では、1人あたりの業務量が多くなっていることもあります。
項目6で、求人票と労働条件通知書の数字を必ず照らし合わせます。
確認の手順は求人票と労働条件通知書の差分確認シートで紹介しています。
病院を考える人へ
ガイドラインは、全国的に病院の偏在指標が目標の1.0を下回っていることを踏まえ、病院薬剤師の確保策の充実が図られるべきだとしています。
一方で、年収は職場ごとの差が大きく、薬局より低い提示になることもあります。
年収面の考え方は病院薬剤師の年収を上げる7つの現実的な方法で整理しています。
薬局で働き続ける人へ
今回示した2014年・2024年の比較では薬局の人数は増えていますが、薬局の偏在指標は東京都1.42から富山県0.82まで地域で大きく違います。
需給推計のとりまとめは、調剤業務に比重を置いた状況が続き、機械化などで対物業務が効率化されると、需要が減ることも考えられるとしています。
在宅に関わる働き方は在宅薬剤師へ移る前の職務設計シート、加算の算定状況から職場を見る視点は加算が取れない薬局で働き続けるリスクが参考になります。
企業・行政を考える人へ
製造販売業・製造業と店舗販売業の届出数は2年で減りました。
職種によって状況は異なるため、製薬企業への転職ガイドや公務員薬剤師の検討シートで、職種ごとの要件を確認してください。
地域・業態の求人を比べたいとき
統計で「足りない」とされる業態や地域でも、実際の求人の条件は職場ごとに違います。シートの項目1〜5で自分の条件を整理してから、同じ項目を埋められる情報を複数の職業紹介事業者から集めると比較しやすくなります。
情報収集先としては薬キャリAGENTやファルマスタッフなどが候補です。希望する業態・雇用形態の求人を扱っているかは、各社に確認してください。各社の特徴は薬剤師向け転職エージェント15選の比較記事、複数社を使うときの管理方法は転職エージェント併用管理シートで確認できます。
取り扱い求人は時期と地域で変わります。実際の求人数や条件は、各社に直接照会してください。
よくある質問
Q. 薬剤師は将来、本当に余るのですか?
2021年の需給推計では、全国の総数で見ると将来は供給が需要を上回るとされています。
ただし推計には仮定があり、需要は業務の充実の程度で33.2万〜40.8万人と幅があります。
同じ文書で、2021年当時は特に病院を中心に充足していないことも明記されています。
Q. 偏在指標の「0.80」は、病院の薬剤師が2割足りないという意味ですか?
指標は、推計業務量に対する調整薬剤師労働時間の比です。
0.80は、算定上の供給側の時間が需要側の時間の8割に相当することを表します。
人数ではなく時間で測っているため、「人数が2割足りない」とそのまま読み替えることはできません。
Q. 自分の地域の偏在指標はどこで確認できますか?
都道府県別の値は、2023年3月の検討会資料「薬剤師偏在指標の算定について」に掲載されています。
二次医療圏ごとの区域設定や確保策は、各都道府県が公表している薬剤師確保計画で確認します。
Q. 三師統計の数字は毎年更新されますか?
薬剤師の届出は2年ごと(偶数年の12月31日現在)で、統計も2年ごとの公表です。
最新は令和6年分(2025年12月23日公表)で、次は令和8年分になります。
まとめ
- 需給推計は全国の総数を見ており、将来は供給が需要を上回る見込み
- 偏在指標では病院0.80・薬局1.08。病院は47都道府県すべてで1.0未満、薬局は地域差が大きい
- 令和6年の三師統計では、薬局+3.5%・病院+1.8%・医薬品関係企業−7.8%
- キャリアの判断では、総数より「自分の業態と地域の数字」と「実際の求人条件」を確認する
「薬剤師は余る」という見出しを見たときは、それが総数の話か、業態や地域の話かを確かめると、自分に関係する数字かどうかを判断しやすくなります。
キャリアの棚卸しから始めたい場合は、30代薬剤師のキャリア判断表や40代薬剤師の職務棚卸しシートも使えます。
参考資料
- 厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ」令和3年6月30日(本文PDF・概要PDF)
- 厚生労働省「薬剤師偏在指標の算定について」第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料1-1-1(令和5年3月29日)
- 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長通知「薬剤師確保計画ガイドラインについて」薬生総発0609第2号(令和5年6月9日)、ガイドライン概要・確定版の別添本文(8〜13ページを確認)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」令和7年12月23日公表(表15〜17、図13)
- 厚生労働省「第111回薬剤師国家試験の合格発表を行いました」令和8年3月25日
確認日:2026年11月4日。統計・指標は公表時点の値です。都道府県の薬剤師確保計画は改定されることがあるため、最新の公表資料を確認してください。


