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【薬剤師向け】ヒヤリハット・インシデント報告書の書き方|SHEL分析・RCAで再発防止する実務フロー

リード

「報告書、何を書けばいいのかわからない」「個人を責める書類になってしまう」――新人から中堅まで、ヒヤリハット報告で手が止まる薬剤師は少なくありません。

報告書は「責任追及の書類」ではなく、「再発防止のためのチームの財産」です。本記事では、現場で迷わず書ける5W1Hの記載項目、SHEL分析(要因の整理手法)とRCA(根本原因分析)の使い分け、そしてそのまま使える記入例まで、実務フローで整理しました。

公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業も2026年3月に第34回報告書を公開しており、報告文化は年々厚みを増しています。今日からの一枚で、明日の事故を防ぎましょう。

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ヒヤリハットとインシデント、アクシデントの違い

まず用語を整理します。混同したまま書き始めると、報告書のレベル感がずれます。

区分 状態 患者影響
ヒヤリハット 患者に到達する前に発見 なし 調剤監査で取り違えを発見
インシデント(レベル0〜3a) 患者に到達したが軽微 なし〜軽微処置 患者交付後に過量に気づき回収
アクシデント(レベル3b以上) 患者に実害が出た 治療や入院が必要 用量過誤で低血糖発作

覚えておきたい一線
「患者に到達したか」「実害が出たか」で分類が変わります。報告書では、まずこの3区分のどこに該当するかを冒頭に明記します。


報告書を書く目的は「人を裁くこと」ではない

報告書の存在意義はひとつ。同じエラーを二度と起こさないことです。

担当者個人を責める書き方をすると、現場の報告文化が崩れます。「報告したら怒られる」となれば、報告されない=水面下のエラーが残り、いずれ大きな事故になります。

公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業も「個人の責任追及」ではなく「システム改善のための情報共有」を目的に運営されています。あなたの報告書も同じ視点で書きましょう。

💡 報告書の3原則
1. 事実だけを書く(解釈・推測は別欄)
2. 個人名より「業務行為」を主語にする
3. 改善案は「人」ではなく「仕組み」に向ける

ヒヤリハット報告書の必須記載項目(5W1H+α)

報告書のフォーマットは施設・薬局ごとに違いますが、最低限おさえるべき項目は共通です。

基本7項目

項目 記載内容 書くコツ
① 発生日時 年月日・時刻(できれば分単位) 繁忙時間帯か閑散時間帯かが分析に効く
② 発生場所 調剤室/監査台/投薬カウンター等 「どの工程」かを特定するキー
③ 当事者・発見者 職種・経験年数(実名は施設方針による) 経験年数は必ず書く(教育設計に直結)
④ 患者情報 年齢・性別・主病名・関連薬剤 個人特定情報は最小限に
⑤ 事象の経過 時系列で「何が起きたか」を事実のみ 解釈や反省を混ぜない
⑥ 発見の経緯 監査・投薬時・患者申告など 「どこで止まったか」が次の改善策
⑦ 対応と結果 回収・説明・医師連絡・経過観察 患者影響の有無を明記

分析パート(後述)

  • 発生要因(SHEL分析等)
  • 再発防止策(短期・中期)
  • 水平展開(同じ事象を他工程・他店舗でも防ぐ視点)

SHEL分析で「人を責めない」要因整理を行う

ここからが分析パートです。要因を「当事者の不注意」で片付けると、再発防止策が「気をつけます」で終わります。

SHEL分析(シェル分析)は、当事者(Liveware)を中心に置き、その周りの4つの環境要因から事象を整理する手法です。1972年にElwin Edwards、1975年にHawkinsが航空業界向けに発展させ、医療・介護分野でも標準的に使われています。

図解:SHELモデル(中心が当事者)

SHEL分析の構造図
Software
手順書・マニュアル
Hardware
機器・棚配置
L
当事者
Environment
照明・騒音・繁忙
Liveware
同僚・チーム
m-SHELLモデルではこの周囲を m: Management(管理・組織) が囲みます

各要素で確認する質問リスト

  • S(Software):手順書通りに動けたか/マニュアルは最新か/薬歴フォーマットは適切か
  • H(Hardware):棚の配置は紛らわしくないか/レセコン画面は見間違いやすくないか
  • E(Environment):照明は十分か/繁忙時間帯だったか/電話の同時対応はなかったか
  • L(Liveware・当事者):疲労・体調・経験年数・教育状況
  • L(Liveware・周囲):ダブルチェックは機能していたか/声かけはあったか

当事者要因だけで終わらせない
「経験不足」と書いて止まると教育依存になります。S・H・E・周囲のLを必ず1つ以上挙げましょう。


RCA(根本原因分析)で「なぜ」を掘る

SHEL分析で要因が整理できたら、特に影響の大きい要因についてRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)で深掘りします。

厚生労働省は2001年に「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」を策定し、医療安全の文化醸成を進めてきました。RCAは、医療安全の現場で広く使われる代表的な分析手法のひとつです。

「なぜ」は3〜5回で止める

例:同姓患者への薬剤取り違え交付

❓ なぜ取り違えが起きた?
→ 患者氏名のフルネーム確認を省略した

❓ なぜフルネーム確認を省略した?
→ 名字だけで本人と判断してしまった

❓ なぜ名字だけで判断した?
→ 繁忙時間帯で確認手順が後回しになった

❓ なぜ繁忙時間帯に1人で対応していた?
→ 昼休憩のシフト設計が当日の処方箋枚数に追いついていなかった

→ 根本原因:「シフト設計と業務量のミスマッチ」

注意:「なぜ」を6回以上繰り返すと「社会が悪い」「制度が悪い」など対処不能な階層に行き着きます。3〜5回で組織として対処可能なレベルに止めるのがコツです。

💡 分析力を磨く近道|他薬局の事例から学ぶ
SHEL分析・RCAは「数をこなす」ほど精度が上がります。他施設・他薬局の事例を読み込むのが最短ルート。m3.com(エムスリー)では薬剤師コラムで実例ベースの安全管理記事が継続的に公開されており、現場感のあるインプットに最適です。
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そのまま使える記入例|散剤の規格違い調剤

実例で書き方を確認しましょう。以下は新人薬剤師でも書ける記入レベルの例です。

Before(書き直しが必要な例)

〇月〇日、Aさん(新人薬剤師)が忙しかったため確認を怠り、別の薬剤を間違えて調剤した。今後は気をつけたい。

問題点は3つ。①事実と感想が混在 ②要因が「忙しかった」で止まっている ③再発防止策が「気をつける」で具体性ゼロ。

After(実務で通用する例)

【発生日時】2026年5月20日(火)13:45
【発生場所】調剤室・散剤秤量台
【当事者】薬剤師A(経験2年目)
【発見者】薬剤師B(経験10年目/監査担当)
【患者情報】3歳男児・気管支炎・体重13kg

【経過】
13:42 処方箋受付。処方内容はホクナリンドライシロップ0.1%。
13:45 ドライシロップ棚から薬剤を取り出す際、隣接棚にあった「メプチンドライシロップ0.005%」を誤って選薬。
13:48 秤量・分包実施。
13:52 監査担当Bが処方箋と現品を照合し、薬剤違いを発見。
13:55 再調剤・監査・投薬完了。患者交付前のため影響なし。

【SHEL分析】
・S:ドライシロップ棚ラベルは品名のみで成分・規格表示が小さい
・H:薬効が類似する小児用ドライシロップが隣接棚に配置されている
・E:処方箋受付ピーク時間帯(13時台)
・L(当事者):経験2年目・小児気管支拡張薬の調剤頻度が低い
・L(周囲):監査前のセルフチェック工程が省略されていた

【根本原因(RCA)】
類似薬効ドライシロップの棚配置と、ラベルの成分表示の小ささが組み合わさり、繁忙時間帯にセルフチェック工程が形骸化していた。

【再発防止策】
■短期(即日)
・気管支拡張ドライシロップの棚を分離配置
・成分・規格表示ラベルをA5サイズに拡大
■中期(1か月)
・繁忙時間帯のセルフチェック工程を業務手順書に明記
・経験年数3年未満の薬剤師に対する小児調剤研修を実施

【水平展開】
全店舗のドライシロップ・散剤棚配置を一斉点検(営業部経由)


提出から再発防止までのフロー

書いて終わりではありません。「提出 → 共有 → 改善 → 効果測定」まで回して初めて報告書の価値が出ます。

ヒヤリハット報告 5ステップフロー
STEP 1
記入・提出
当日〜翌日
STEP 2
管理者確認
事象分類
STEP 3
分析(SHEL/RCA)
部門内協議
STEP 4
改善策実装
短期+中期
STEP 5
効果測定・共有
3か月後再評価

特にSTEP 5が大切です。改善策を打ったあと、同種のヒヤリハットが減ったかを月次集計で追います。減らなければ、原因の捉え方が浅いか、改善策が現場で機能していません。


報告したくなる現場をつくる3つの工夫

報告制度の最大の敵は「報告しても無駄」「報告すると怒られる」という空気です。書ける制度を整えても、報告が上がってこなければ意味がありません。

  1. 匿名報告ルートを残す:紙とWebの両方を残し、心理的ハードルを下げる
  2. 報告者を表彰する:「報告ありがとう」と公の場で言う。罰しない
  3. 改善結果を必ずフィードバックする:報告→改善→共有のループを可視化

まとめ|報告書は「明日の事故を防ぐカルテ」

ヒヤリハット報告書は、責任追及の書類ではなく、現場の安全装置を磨くためのカルテです。

  • 必須項目は5W1H+発生要因+再発防止策
  • 要因整理はSHEL分析で「人」だけに寄せない
  • 根本原因はRCAの「なぜ」を3〜5回で掘る
  • 改善策は短期と中期を分けて書く
  • 提出後の効果測定まで含めて1サイクル

報告は「個人の失敗」ではなく「チームの財産」です。今日の一枚が、明日の患者を守ります。


関連記事|安全管理の実務を深掘りする

現場の安全管理は、報告書ひとつでは完結しません。事象別の実務知識も合わせて押さえておきましょう。


安全管理の感度を上げるなら、最新情報の習慣化を

ヒヤリハットの傾向は薬剤の入れ替わり・制度改定とともに変わります。安全管理の感度を高く保つには、最新事例を定期的にインプットする習慣が欠かせません。

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