「この薬は全国でどのくらい処方されているのだろう」。
薬局の採用品目を見直すときや、勉強会の資料を作るときに、根拠のある数字を探したくなることがあります。
NDBオープンデータは、厚生労働省が公開するレセプトなどの集計表です。
申請や料金なしで利用できます。
ただし、処方薬の表に並ぶ数量は患者数を表していません。
単位、非公表値、割合の分母、地域比較の条件を確認してから使います。
第11回の「内服の外来(院外)」を実際に集計し、4つの確認点を整理しました。
記事中の独自集計は、公費レセプトを含まない処方薬データを加工したものです。
最初に厚生労働省の第11回NDBオープンデータで、対象年度と更新記録を確認してください。
この記事は2026年9月11日に取得したファイルを使用しています。
もくじ
第11回NDBオープンデータの対象と更新内容
| 項目 | 確認した内容 |
|---|---|
| 公開日 | 2026年6月16日 |
| レセプトの対象 | 2024年4月〜2025年3月診療分(令和6年度) |
| 特定健診の対象 | 令和5年度実施分 |
| 処方薬の更新 | 2026年9月2日。参考情報の薬価、薬価基準収載医薬品コード、後発医薬品区分を更新し、内服と注射の追加医薬品を出力。公式案内では集計データへの影響はないとされています |
| 公開形式 | Excelファイル。グラフなどを見る分析サイトもあります |
| 今回使う表 | 処方薬/公費レセプトを含まない/内服/外来(院外)/都道府県別 |
第11回では処方数量の上位100位、300位、500位による絞り込みが撤廃されました。
ただし、医科別や歯科別の一部の表には上位10位の選定が残ります。
すべての表で順位制限がなくなったわけではありません。
公費負担医療のみで請求されたレセプトを含む表と、含まない表があります。
過去の回と比べる場合は公費の扱いをそろえ、順位の選定条件や改訂内容も確認します。
「公費なし」を選ぶだけで、年をまたいだ比較条件がすべて一致するわけではありません。
薬剤師が処方薬ファイルを開く手順
第11回のページで「処方薬」の公費レセプトを含まないデータを選び、zipを展開します。
今回使うのは「【内服】外来(院外)_都道府県別薬効分類別数量.xlsx」です。
医科のみ、歯科のみのファイルと取り違えないようにします。
今回のファイルは1行目に対象期間と非公表の条件、3〜4行目に見出しがあり、5行目からデータが始まります。
zipの展開でファイル名が文字化けする場合は、日本語の文字コードに対応した解凍方法を使います。
| 列 | 読むときの注意 |
|---|---|
| 医薬品コードと医薬品名 | 品目の特定に使います。名称や規格も合わせて確認します |
| 薬効分類と単位 | 分類だけでまとめず、錠、g、mLなどの単位で分けます |
| 薬価基準収載医薬品コード | 列の正式名称で扱い、コードだけでなく医薬品名と規格を照合します |
| 薬価と後発品区分 | 参考情報です。現在の薬価や、診療当時の金額をそのまま示すとは限りません |
| 総計と都道府県別数量 | 総計と内訳のそれぞれに非公表値があり得ます |
電子添文を調べるときは、PMDAの電子添文検索で製品名や規格を確認します。
数量に参考薬価を掛けた値を、実際の診療当時の薬剤費とみなさないようにします。
処方数量と患者数の違い
処方数量は、1日当たりまたは1回当たりの使用量に、日数または回数を掛けた値です。
例えば1日3錠を28日分なら84錠になります。
同じ1人への処方でも、用量や日数が違えば数量は変わります。
数量だけから患者数、処方せん枚数、治療の適切さは判断できません。
同じ単位でも、成分や規格、用量が違えば数量の意味は変わります。

確認1:単位をそろえてから集計する
今回のファイルは医薬品コードがある12,716行で、コードの重複はありませんでした。
薬効分類は108分類です。
単位欄には12種類の表記があり、これとは別に空欄が1品目ありました。
| 単位 | 全品目数 | 総計が数値の品目数 |
|---|---|---|
| 錠 | 8,745 | 8,262 |
| mL | 261 | 246 |
| g | 2,706 | 2,424 |
| カプセル | 749 | 701 |
| 包 | 208 | 193 |
| その他7種類 | 46 | 38 |
| 単位空欄 | 1 | 0 |
その他7種類は丸、個、シート、瓶、カセット、袋、セットです。
表では原データの全角「g」「mL」をg、mLと表記しています。
108分類のうち82分類では、単位空欄を除いても2種類以上の単位が混在していました。
錠数と液量を足して「全体の何%」と表すと、何を比較しているのか分からなくなります。
薬効分類ごとの数量順位も、そのまま患者数や需要の順位には置き換えられません。
例えば「214 血圧降下剤」のうち「錠」に絞れば、錠数という単位はそろいます。
ただし、規格や1日量の差は残ります。
単位をそろえることは比較の出発点であり、患者数や薬効の比較を可能にするものではありません。
確認2:ハイフンを0に置き換えない
第11回の解説編24ページには、少数の集計値を非公表にする原則と例外が示されています。
内服と外用の処方数量は1,000未満、注射は400未満が基準です。
0は原則として表示されますが、追加の非公表処理でハイフンになる場合もあります。
今回のExcelの先頭注記には、1,000未満の箇所が1か所の場合、1,000以上の最小値をすべて非公表にする旨が記載されています。
公費を含む表と含まない表で非公表箇所をそろえる処理もあります。
ハイフンから元の値や非公表の理由を決めつけず、表ごとの注記を確認します。
| 確認した範囲 | 結果 |
|---|---|
| 全12,716品目 | 総計が数値:11,864品目/総計が非公表:852品目 |
| 総計が数値の11,864品目 | 都道府県欄にハイフンを含む:7,513品目(63.3%) |
| 同じ11,864品目 | 表示された都道府県の数値だけを足すと0:633品目 |
633品目は「47都道府県すべてがハイフン」という意味ではありません。
例えばエスゾピクロン1mg錠は総計4,167錠に対し16県がハイフン、31県が0でした。
花扇シャクヤクKは総計473,647.5gに対し2県がハイフン、45県が0でした。
表示された0は残っていますが、正の数量を県別に読むことはできません。
この表だけでは、それぞれの非公表セルの数量や、どの処理で伏せられたかは確認できません。
特定の県にどの程度集中したかを推定して説明することも避けます。
非公表値の影響は、集計範囲ごとに確認する
総計が数値の行に限り、同じ単位ごとに「総計の合計」と「表示された都道府県値の合計」の差を比べました。
非公表セルは合計から除外し、0を補った値とは扱っていません。
| 単位 | 対象行数 | 総計に対する差の割合 |
|---|---|---|
| 錠 | 8,262 | 約0.020% |
| g | 2,424 | 約0.033% |
| 瓶 | 8 | 約53.2% |
| セット | 1 | 100% |
対象の選び方によって差は大きく変わります。
錠全体の差が小さくても、特定の薬効分類、品目、県で影響が小さいとは限りません。
総計自体が非公表の852品目も、この差の計算には含まれていません。
分析対象ごとに非公表セルの数と総計の扱いを記録します。
確認3:後発品区分と使用割合の分母を区別する
後発品区分が1の行の数量を、0と1の全行の数量で割っても、厚生労働省が公表する後発医薬品の使用割合にはなりません。
列の0は「後発品以外」であり、すべてが「後発品のある先発品」を意味するわけではないからです。
厚生労働省の保険者別集計では、分母は「後発医薬品がある先発医薬品の数量+後発医薬品の数量」、分子は「後発医薬品の数量」です。
例えば、82.75%という公表値は令和6年3月診療分の公表値で、今回の年度や対象範囲とは異なります。
最新の使用割合としては扱いません。
公的な数量指標は、定められた対象品目と数量の算出方法に従う指標です。
一般的な薬の需要比較で単位をそろえる話と、制度上の指標の再現は分けて考えます。
後発品区分だけから公的な使用割合や加算の実績を計算しないようにします。
特定成分の使用状況を見る場合も、成分、規格、単位、対象期間をそろえてから確認します。
先発品と後発品の基本的な位置づけは先発医薬品とジェネリックの違いで整理しています。
確認4:地域比較では人口と所在地、年齢構成を確かめる
処方数量の実数は地域全体の規模を見る値です。
人口当たりの値を比べたい場合には、人口という分母を加えます。
比較の目的によって使い分けます。
どの薬でも人口の多い都府県が必ず上位になるわけではありません。
血圧降下剤の錠について、各都道府県の表示された数値を合計し、総務省統計局の2024年10月1日現在の総人口で割りました。
分母には全年齢の住民が含まれます。
これは患者1人当たりの服用量ではありません。
| 都道府県 | 実数の順位 | 住民人口で割った順位 | 人口当たり数量 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1位 | 43位 | 44.5錠/人 |
| 神奈川県 | 2位 | 34位 | 49.8錠/人 |
| 大阪府 | 3位 | 47位 | 43.6錠/人 |
| 秋田県 | 28位 | 1位 | 88.8錠/人 |
この条件では、東京都は実数1位から人口当たり43位、秋田県は28位から1位に変わります。
ただし、元の都道府県欄は医療機関や薬局の所在地で分けられており、患者の住所ではありません。
県境をまたぐ受診や調剤があるため、地域住民の服薬量とは一致しません。
高齢化率との相関は、年齢調整ではない
47都道府県の人口当たり数量と、65歳以上人口の割合との相関係数も計算しました。
総人口と65歳以上人口は、同じ人口推計の第2表と第3表から取得しています。
| 薬効分類と単位 | 相関係数 |
|---|---|
| 214 血圧降下剤(錠) | 0.68 |
| 520 漢方製剤(g) | 0.40 |
| 112 催眠鎮静剤,抗不安剤(錠) | 0.30 |
相関を計算しても、年齢構成の影響を取り除いたことにはなりません。
0.68という値から「秋田県の順位は高齢化で説明できる」と結論することはできず、0.30だから年齢の影響がないとも言えません。
地域単位の相関は、個々の患者の年齢と服薬の関係も示しません。
年齢調整には年齢階級別の数量と、それに対応する人口などが必要です。
今回の単純集計では実施していません。
規格、用量、受診先、非公表値の影響も残るため、順位を処方の適否や地域の良し悪しに結び付けないようにします。
勉強会に使う前に残す集計条件シート
採用品目の見直しでは全国の数値を参考にし、自店の処方や供給状況を別に確認します。
勉強会では「何を数え、何を数えていないか」を添えると、数字だけが独り歩きしにくくなります。
次の項目を薬局DIメモに残してください。
| 記録項目 | 今回の記入例 |
|---|---|
| 問い | 血圧降下剤の表示錠数は、人口で割ると順位がどう変わるか |
| 出典と版 | 第11回NDB。処方薬の2026年9月2日更新版を9月11日に取得 |
| 対象期間と範囲 | 2024年4月〜2025年3月。公費なし、内服、外来(院外) |
| 分類と単位 | 薬効分類214、錠 |
| 非公表値 | ハイフンは除外。表示値の合計であり、完全な数量とは扱わない |
| 分母 | 2024年10月1日現在の都道府県総人口 |
| 解釈の限界 | 所在地ベース。年齢調整なし。患者数や処方の適否は分からない |
資料の組み立てには薬局内勉強会の資料テンプレートも使えます。
日々の医薬品情報から調べたい疑問を見つける補助として、m3.comの情報収集機能と無料会員登録の使い方を確認する方法もあります。
集計の根拠は公表元の資料に戻って確かめます。
資料に使うときの出典と加工表記
厚生労働省の利用案内では、特記されたものを除き公共データ利用規約(第1.0版)に準拠し、出典と加工した旨の記載を求めています。
ロゴや別の利用ルールが示されたコンテンツなど、適用外もあります。
利用条件は「出典を書けば何でも使える」と一括りにしないようにします。
記載例は「厚生労働省『第11回NDBオープンデータ』(該当ページのURL、取得日)を加工して筆者作成」です。
人口で割った表なら、総務省統計局の人口推計も併記します。
国が作った集計結果と誤解される表示は避けます。
よくある質問
分析サイトとExcelはどう使い分けますか
全体の傾向をグラフで見るときは分析サイトが便利です。
今回のように単位や対象行を明示して集計する場合はExcelファイルを取得します。
Excel以外の分析ソフトでも処理できます。
公費レセプトを含む表と含まない表はどちらを選びますか
知りたい対象に合わせて選び、分析中は条件をそろえます。
過去との比較では、公費の有無だけでなく順位の選定条件やデータの改訂も確認します。
最新の処方傾向が分かりますか
第11回は2026年6月公開で、対象の診療期間は2024年4月〜2025年3月です。
足元の処方動向とは時間差があります。
直近の供給状況は医薬品安定供給状況等管理システムの案内などで別に確認します。
特定の1品目を調べるにはどうしますか
医薬品コードや医薬品名で絞り、規格を照合します。
総計や性年齢別の表にも非公表値があるため、数値が必ず残るとは限りません。
ハイフンは不明な値として記録します。
病院薬剤師も使えますか
入院や外来(院内)、注射の表を選べます。
ただし、病院ごとの症例構成や処方の適切さをこの集計だけで比較することはできません。
対象となるレセプトと集計範囲を確認して使います。
集計結果を職場で説明できる形にする
データを読む学習では、複雑な計算を増やすより、問い、出典、集計条件、限界を一緒に説明する練習が役立ちます。
研修資料や採用品目の検討メモとして1件残せば、薬剤師として何を確認し、どこから先を判断しなかったかを示せます。
公的データの扱い方を学ぶ次の題材として、JADERの報告件数を読む確認順やPMDA審査報告書の読み方があります。
臨床研究の登録内容はjRCTの使い方で整理しています。
それぞれの資料が答えられる問いを分けて使います。
参考にした一次情報
- 厚生労働省:NDBオープンデータ(公開日の記録)
- 厚生労働省:第11回NDBオープンデータ(処方薬と更新記録)
- 厚生労働省:第11回NDBオープンデータ解説編(7、16、24ページなど)
- 厚生労働省:第11回NDBオープンデータについて
- 厚生労働省:保険者別の後発医薬品の使用割合(令和6年3月診療分)
- 総務省統計局:人口推計(2024年10月1日現在)第2表、第3表
- 厚生労働省:利用規約と著作権等
- 厚生労働省:NDBオープンデータ分析サイト
出典:厚生労働省「第11回NDBオープンデータ」および総務省統計局「人口推計(2024年10月1日現在)」。
本文の品目数、単位別の内訳、表示数量の差、順位、人口当たり数量、相関係数は、上記資料を加工して筆者が作成しました。
集計条件は本文の表に記載しています。
2026年9月11日時点で確認した公表情報に基づきます。
公表資料は更新されるため、利用時には対象年度と最新の更新記録を確認してください。

