2026年5月1日から、一般用医薬品等の販売現場では「指定濫用防止医薬品」の新しい販売ルールが本格的に動き始めました。施行直後は「対象成分を覚える」「販売手順書を作る」ことに意識が向きがちですが、1ヶ月たつと見えてくるのは、知識よりも店頭運用の抜けです。
とくに、デキストロメトルファンとジフェンヒドラミンが対象成分に加わったことで、咳止め、総合感冒薬、睡眠改善薬など、確認が必要な売り場が広がりました。会計直前に「この商品も対象だった」と気づく運用では、レジも購入者対応も止まりやすくなります。
この記事では、厚生労働省の告示・通知・Q&Aをもとに、施行1ヶ月時点で薬局・ドラッグストアが見直したい運用ミスを10個に整理します。単なる制度解説ではなく、店頭確認スクリプトと販売手順書の見直しチェックリストまで落とし込みます。
この記事でわかること
- 指定濫用防止医薬品の8成分と、外用剤除外の考え方
- 「小容量」「大容量」「複数個」を現場で判定する考え方
- 18歳未満・18歳以上で異なる確認ポイント
- 施行1ヶ月で見直したい運用ミス10パターン
- 店頭で使える購入者確認スクリプトと手順書チェックリスト
もくじ
結論:1ヶ月レビューで見るべきは「対象商品」より「確認の流れ」
指定濫用防止医薬品の対応で大切なのは、8成分を暗記することだけではありません。実務では、次の3つがつながっていないと販売判断がぶれます。
- 商品ごとの対象成分・日数区分を商品マスタや棚で判別できる
- 年齢・購入状況・購入理由を薬剤師または登録販売者が確認できる
- 手順書・陳列・シフトが実際の売り場の動きに合っている
ルールを知っている状態と、レジで迷わず回せる状態は別です。 この記事は、施行1ヶ月後の点検表として使えるように構成しています。
制度改正や安全性情報は、本文の最後に載せた厚生労働省ページ・通知PDFで必ず一次情報を確認してください。薬剤師向けの医療ニュースを日々追う場合は、m3.comのような医療従事者向け情報源を補助的に使うと、制度改正に気づきやすくなります。
まず押さえる:指定濫用防止医薬品の8成分
厚生労働省の告示適用通知では、指定濫用防止医薬品は次の8成分、その水和物・塩類を有効成分として含む製剤とされています。ただし、いずれも外用剤は除外です。また、生薬を主たる有効成分とする製剤は含まないとされています。
| 区分 | 成分 | 現場で見落としやすい売り場 |
|---|---|---|
| 従来からの対象 | エフェドリン | 鎮咳去痰薬、鼻炎薬 |
| 従来からの対象 | コデイン | 鎮咳去痰薬、総合感冒薬 |
| 従来からの対象 | ジヒドロコデイン | 鎮咳去痰薬、総合感冒薬 |
| 従来からの対象 | プソイドエフェドリン | 鼻炎用内服薬、総合感冒薬 |
| 従来からの対象 | ブロモバレリル尿素 | 解熱鎮痛薬、催眠鎮静薬 |
| 従来からの対象 | メチルエフェドリン | 鎮咳去痰薬、総合感冒薬、鼻炎薬 |
| 追加で注意 | ジフェンヒドラミン | 睡眠改善薬、抗アレルギー薬、乗り物酔い薬 |
| 追加で注意 | デキストロメトルファン | 鎮咳去痰薬、総合感冒薬 |
出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第三十六条の十一第一項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬品(告示)の適用について」(令和8年2月13日医薬発0213第1号)。
「小容量」と「大容量」は日数で見る
大容量製品かどうかは、単純なmL数や錠数ではなく、その製品の用法・用量で何日分にあたるかで判断します。厚生労働省の数量告示適用通知では、指定濫用防止医薬品ごとに「一包装」で、かつ次の日数分を超えない数量が基準として示されています。
数量判定の基本(令和8年厚生労働省告示第33号)
原則は 5日分。ただし、効能・効果に応じて 7日分 までとされる成分があります。
- エフェドリン・コデイン:例外なく5日分
- ジヒドロコデイン・ジフェンヒドラミン・デキストロメトルファン:かぜ薬の効能・効果を有する製剤は7日分
- プソイドエフェドリン・メチルエフェドリン:かぜ薬・鼻炎用内服薬は7日分
- ブロモバレリル尿素:解熱鎮痛薬は7日分
年齢で用量が異なる製品は1日量が最も多い年齢の用量で、頓用の製剤は頓用による1日当たりの最大使用量で日数分を判断します。
たとえば同じ100mLのシロップでも、1日使用量が違えば日数分の判定も変わります。売り場では「対象成分あり」だけでなく、商品マスタに「日数分」「大容量該当の有無」を持たせる方が現実的です。
18歳未満・18歳以上の販売ルールを整理
販売時の混乱を減らすには、年齢と数量を分けて考える必要があります。
指定濫用防止医薬品 販売ルール早見図
18歳未満の購入者
- 厚生労働大臣が定める数量の範囲内で判断
- 大容量製品や複数個の販売は不可
- 氏名、年齢、購入状況などの確認が必要
- 対面等による情報提供が必要
- 年齢確認は自己申告だけでなく、必要に応じて身分証・会員情報等も活用
18歳以上の購入者
- 大容量製品または複数個の購入では理由確認が必要
- 同一指定成分を含む別製品を1つずつ買う場合も複数個に該当
- 異なる指定成分の組み合わせでも、必要に応じて購入理由や重複使用を確認
- 対面等が必要な場面では、電話のみ・チャットのみでは足りない
対面等とは:対面のほか、映像と音声を送受信し、相手の状態を相互に認識しながら通話できる方法が想定されています。厚労省通知では、電話のみ・メールのみ・チャットのみの方法は含まれないとされています。
指定濫用防止医薬品 販売判断フロー(5ステップ)
対象成分
8成分の有無
外用剤は除外
年齢確認
18歳未満は
氏名・年齢も
数量
小容量/大容量
複数個の有無
理由・購入状況
他店購入歴
使用者・症状
情報提供と相談
理解・質問の
有無を確認
売り場ではこの順序で確認すると、判断漏れを減らしやすくなります。
施行1ヶ月で見直したい運用ミス10選
ここからは、店舗で起きやすい運用ミスを10個に分けます。どれも「知らなかった」より、手順書・棚・レジ・シフトのつなぎ目で起きやすいものです。
| No. | 起きやすいミス | 再発防止策 |
|---|---|---|
| 1 | ジフェンヒドラミン含有薬の見落とし | 睡眠改善薬、乗り物酔い薬、かゆみ止め系の棚も対象確認に入れる。新規追加成分は既存6成分と色を分ける。 |
| 2 | デキストロメトルファン含有薬の見落とし | 鎮咳去痰薬と総合感冒薬を横断して確認。ブランド名ではなく成分でPOSフラグを付ける。 |
| 3 | 小容量・大容量をmLや錠数だけで判断 | 用法・用量から見た日数分で判定。年齢別用量がある製品は、1日量が最も多い年齢で確認する。 |
| 4 | 年齢確認を見た目だけで済ませる | 18歳以上が明らかでない場合は、自己申告だけに寄せず、身分証や会員情報など客観的な確認手段を手順書に入れる。 |
| 5 | 同一成分の別商品を複数扱いにしていない | 同一指定成分を含む異なる製品を1つずつ販売する場合も複数個販売に該当する。成分タグで重複検知する。 |
| 6 | 大容量・複数個の理由確認が浅い | 「家族用です」だけで終えず、人数、症状、必要量、他店購入状況を確認し、数量の妥当性を薬剤師等が判断する。 |
| 7 | 保護者同伴なら18歳未満でも大容量可と誤解 | 使用者・購入者の状況を確認する。18歳未満が使う前提なら、大容量・複数個の販売は避ける運用を明確にする。 |
| 8 | POP掲示だけで情報提供したつもりになる | 濫用時の保健衛生上の危害、適正使用に必要な情報、理解と質問の有無の確認まで行う。フリップや掲示物は会話の補助に使う。 |
| 9 | 電話・チャットを対面等と混同 | 厚労省通知では、電話のみ、メールのみ、チャットのみは対面等に含まれない。ビデオ通話等の手順を別に用意する。 |
| 10 | 手順書はあるが、売り場の動きに合っていない | 販売方法、確認事項、陳列、頻回購入時の対応、必要な支援先へのつなぎ方を、実際のシフトとレジ動線で点検する。 |
店頭で使える購入者確認スクリプト
確認事項を毎回その場で考えると、忙しい時間帯に漏れます。特に大容量製品や複数個の購入では、次のように短く、同じ順序で確認できるようにしておくと運用が安定します。
確認スクリプト例(大容量・複数個の購入時)
- 「こちらは濫用を防ぐため、販売時にいくつか確認が必要な医薬品です」
- 「ご使用になる方の年齢を確認してもよろしいですか」
- 「同じ製品、または同じ成分を含む薬を、他店やネットで最近購入されていますか」
- 「大容量、または複数個を希望される理由を教えてください」
- 「今使っている薬、似た症状の薬、眠気が出る薬はありますか」
- 「説明内容で不明な点や、使い方で不安な点はありますか」
ポイントは、詰問にしないことです。「販売できません」から入るのではなく、制度上確認が必要であることを先に伝えると、購入者側も答えやすくなります。
特定販売・ビデオ通話で押さえるポイント
ネット販売やカタログ販売に近い運用では、年齢確認や対面等の扱いが混乱しやすくなります。厚労省Q&Aでは、特定販売における年齢確認として、身分証アップロード、マイナンバーカードを用いた年齢認証、通信事業者の契約情報に基づく認証などが例示されています。
| 確認項目 | 現場での注意点 |
|---|---|
| 年齢確認 | 自己申告だけで足りるかは場面次第。客観的に確認できる方法を手順書に入れる。 |
| 対面等 | ビデオ通話のように、映像と音声で相手の状態を相互に認識できる方法を想定する。 |
| 電話・メール・チャット | 厚労省通知では、これらのみの方法は対面等に含まれない。 |
| 判断困難時 | オンライン確認で適正使用を確保できないと判断した場合は、対面販売へ切り替える。 |
販売手順書の1ヶ月レビューチェックリスト
販売手順書は、作って終わりではありません。施行1ヶ月後は、次の項目を実際の売り場で確認しましょう。
販売手順書 1ヶ月レビューチェックリスト
- □ 8成分のリストが令和8年5月1日適用後の内容になっている
- □ 外用剤除外、生薬主成分製剤の扱いを手順書内で確認できる
- □ 商品マスタに対象成分と日数分の判定欄がある
- □ 同一指定成分を含む別商品を複数個として拾える
- □ 18歳未満の氏名・年齢確認の方法が決まっている
- □ 大容量・複数個の理由確認スクリプトがある
- □ 情報提供用のフリップ、掲示物、画面表示が準備されている
- □ 薬剤師・登録販売者が不在になる時間帯の販売停止ルールがある
- □ 頻回購入や支援が必要そうな購入者への対応手順がある
- □ 朝礼・新人研修で実際のロールプレイをしている
よくある質問(Q&A)
Q1. 同じ成分を含む別商品を同時に買おうとした場合は?
A. 厚労省通知では、同一指定成分を含有する異なる製品を1つずつ販売する場合も、複数個の販売に該当するとされています。成分で確認してください。
Q2. 異なる指定成分の商品を1つずつ買う場合は?
A. 厚労省通知では、異なる指定成分の製品を1つずつ販売する場合、数量超過の販売には当たらないとされています。ただし、濫用防止や重複使用、相互作用の観点から、必要に応じて購入理由や使用状況を確認することが適当です。
Q3. 18歳未満の家族のために、保護者が大容量製品を買う場合は?
A. 使用者や購入状況を確認し、18歳未満が使う前提であれば大容量・複数個の販売は避ける運用が安全です。判断に迷う場合は、手順書と管轄自治体の指導に沿って対応してください。
Q4. 確認した内容はどれくらい記録すべきですか?
A. 今回確認した厚労省資料では、この記事内で一律の保存期間を断定できません。少なくとも、販売判断の根拠が後から追えるよう、各薬局等の指定濫用防止医薬品販売等手順書に沿って記録方法を定めるのが安全です。
Q5. 支援が必要そうな購入者に出会ったらどうしますか?
A. 厚労省通知では、薬剤師・登録販売者にゲートキーパーとしての役割も期待されています。販売可否だけで終えず、相談窓口や支援先の情報を整理しておくことが望ましいです。
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- PMDAブルーレターを薬局でどう扱うか|安全性情報の共有フロー
m3導線:制度改正に気づく仕組みを持つ
指定濫用防止医薬品のような制度改正は、通知が出てから売り場に落とし込むまで時間差が出ます。厚生労働省やPMDAの一次情報を確認することを前提に、医療従事者向けニュースも補助線として持っておくと、見落としを減らせます。
医療ニュース・制度改正を効率よく追うなら m3.com
m3.comは医療従事者向けの情報収集に使える無料登録サービスです。制度改正や医療ニュースに気づくきっかけとして使い、最終確認は厚生労働省・PMDAなどの一次情報で行う流れが安全です。
キャリア導線:転職より先に「業務設計」を見る
指定濫用防止医薬品の対応は、薬剤師個人の努力だけでは回りません。商品マスタ、陳列、シフト、手順書、教育が整っているかで、現場の負担は大きく変わります。
働き方を考える場合も、いきなり転職ではなく、まずは「制度改正を現場でどう吸収している職場か」を見るのが現実的です。求人を見るときは、OTC販売体制、登録販売者との役割分担、管理薬剤師の裁量、研修の有無を確認すると、職場の安全管理力が見えやすくなります。
まとめ:施行後の現場を回す3つのコツ
- 商品単位で仕組み化する:対象成分、外用剤除外、日数分、大容量該当を商品マスタに入れる
- 会話をスクリプト化する:年齢、購入状況、購入理由、理解と質問の有無を同じ順序で確認する
- 手順書を売り場で試す:レジ、棚、シフト、ビデオ通話、支援先へのつなぎ方まで実際に動かす
指定濫用防止医薬品の新ルールは、単なる販売制限ではありません。薬剤師・登録販売者が、一般用医薬品の適正使用と濫用防止を店頭で支えるための制度です。今日のチェックリストを使って、自店の運用を一度見直してみてください。
参考資料・一次情報
- 厚生労働省「医薬品の販売制度」
- 厚生労働省「令和7年の薬機法等の一部改正」
- 厚生労働省「指定濫用防止医薬品(告示)の適用について」(令和8年2月13日医薬発0213第1号)
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める数量(告示)の適用について」(令和8年2月13日医薬発0213第2号)
- 厚生労働省「指定濫用防止医薬品の販売等について」(令和7年12月26日医薬発1226第16号)
- 厚生労働省「指定濫用防止医薬品の販売等に係る質疑応答集(Q&A)について」(令和8年1月30日事務連絡)
- e-Gov法令検索「医薬品医療機器等法施行規則」
※本記事は2026年6月11日時点で確認した公開情報に基づきます。実際の販売判断は、最新の法令、厚生労働省通知、管轄自治体・保健所の指導、各薬局等の指定濫用防止医薬品販売等手順書に従ってください。

