「認知症の点滴治療を始める前に、遺伝子検査を勧められました」。
レカネマブやドナネマブの治療を受ける患者さんから、薬局でも相談される場面が考えられます。
2026年8月17日、厚生労働省は両剤の使用上の注意の改訂を指示しました。
投与開始前のAPOE遺伝子検査を考慮し、検査の意義を説明して同意を得ることが、警告と重要な基本的注意に追記されています。
背景にあるのは、脳のむくみや微小出血などをMRIで捉えるアミロイド関連画像異常(ARIA)のリスクです。
APOE検査はリスクを考える材料になりますが、検査結果だけで投与の可否やMRIの必要性が決まるものではありません。
対象:薬剤師を中心とする医療従事者/情報確認日:2026年9月5日。改訂指示日と記事の確認日を区別して記載しています。
薬剤師が確認する6項目
- 検査の位置づけと改訂の背景
- 検査前の説明と同意
- APOEε4の結果とARIAリスク
- 薬剤ごとのMRI予定と投与管理
- 併用薬と血圧の確認
- 症状が出たときの連絡と受診

改訂を薬局内で共有する際は、電子添文改訂の更新ログと朝礼メモも活用できます。
もくじ
1.APOE遺伝子検査の位置づけと改訂の背景
今回の通知は医薬安発0817第1号で、別紙1がドナネマブ(ケサンラ点滴静注液350mg)、別紙2がレカネマブ(レケンビ点滴静注200mg、同500mg)です。
両剤の警告1.2項と、重要な基本的注意のAPOEに関する項が改訂されました。
| 項目 | 改訂後に確認する内容 |
|---|---|
| 警告1.2項 | APOEε4ホモ接合型でARIAが多いことを踏まえ、投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮します。 |
| 重要な基本的注意 | 原則として投与前に検査を考慮します。開始前に実施しなかった場合も、治療中に必要と考えるときは実施を検討します。 |
| 検査の方法と説明 | 承認された体外診断用医薬品を用い、最新のガイドライン等を参考に意義を説明して同意を得ます。 |
| 継続する安全管理 | APOEε4の保因状況にかかわらず、MRI検査を含むARIA管理を実施します。 |
出典:厚生労働省「使用上の注意の改訂について」(2026年8月17日)
PMDAの改訂報告書は、APOEε4ホモ接合型でARIAの発現割合が高い傾向と、2026年7月のAPOE遺伝子検査の保険収載を、改訂の理由として挙げています。
製造販売後調査や国内副作用報告、臨床試験などを検討したうえでの判断です。
電子添文の記載は「実施を考慮すること」です。
一方、学会の適正使用ガイドラインは、治療前のリスク評価や患者さんとの共同意思決定に役立てる検査を推奨しています。
「検査が一律に義務化された」「検査は不要」のどちらにも単純化せず、投与を担当する医師による説明につなげます。
出典:PMDA 改訂報告書
2.検査前に説明する目的と同意
参照するのは、7学会監修の「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン 第2版」(2026年7月16日)です。
抗アミロイドβ抗体薬を処方する認知症診療の専門医が、検査前の説明、同意取得、結果説明を主体的に行うとされています。
- 目的:抗アミロイドβ抗体薬によるARIAリスクを評価し、治療を一緒に考える材料にします。
- 限界:APOEの結果だけでアルツハイマー病の診断や将来の発症を確定する検査ではありません。ガイドラインは、健常者の発症予測を目的とした検査を不適切な使用としています。
- 遺伝情報への配慮:結果は本人だけでなく血縁者にも関係し得るため、不安や希望に応じて遺伝カウンセリングにつなぐ配慮が必要です。
同意は原則として本人から得ます。
十分な理解や判断が難しい場合は家族などの代諾者を設定できますが、その場合も本人の意思や理解への配慮が必要です。
薬局では検査への不安や説明で分からなかった点を聞き取り、投与施設への相談を支援します。
患者さんへの説明例
「この検査は、点滴治療で脳のむくみや小さな出血が起こるリスクを考える材料になります。結果の意味やご家族への影響で気になることは、検査前に担当医へ確認しましょう」
出典:APOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン 第2版(第6章、第7章)
投与施設では、公開されている同意説明モデル文書も確認できます。
3.APOEε4の結果とARIAリスクの読み方
APOEε4を2つ持つ場合がホモ接合型、1つ持つ場合がヘテロ接合型、持たない場合が非保因者(ノンキャリア)です。
ARIAには、浮腫や滲出液貯留を示すARIA-Eと、脳微小出血や脳表ヘモジデリン沈着などを示すARIA-Hがあります。
ドナネマブの電子添文8.2.4項には、投与法の異なる試験の結果が載っています。
以前の投与法の数値を、現在の増量方法のリスクとしてそのまま説明しないことが確認点です。
| APOEε4の型 | AACI試験 旧投与法 |
AACQ試験 350mg開始群 |
|---|---|---|
| ホモ接合型 | 41.3%(59/143例) | 23.8%(5/21例) |
| ヘテロ接合型 | 23.2%(105/452例) | 15.7%(18/115例) |
| 非保因者 | 15.7%(40/255例) | 13.3%(10/75例) |
AACI試験:最初の3回は700mg、その後1400mgを4週間隔。AACQ試験の350mg開始群:350mg→700mg→1050mg→以降1400mgを4週間隔。
試験ごとに対象者や観察条件が異なるため、この表から試験間のリスク低下率や個々の患者さんの発現確率は算出できません。
数値は電子添文8.2.4項の表に基づき、17.1.2項の「24週時」の数値とは区別します。
出典:ケサンラ電子添文(2026年8月改訂、第6版)8.2.4項
レカネマブでも、電子添文8.1.4項に示されたARIA-Eの発現割合は、ホモ接合型32.6%、ヘテロ接合型10.9%、非保因者5.4%です。
これもドナネマブとの直接比較試験の結果ではなく、薬剤間の安全性の順位づけには使えません。
出典:レケンビ電子添文(2026年8月改訂、第5版)8.1.4項
両剤とも、非保因者にARIAが起こらないわけではありません。
遺伝子型だけを根拠に、規定のMRI検査を省略しないことが共通の管理方針です。
国内副作用報告の件数は発現率と区別する
2026年8月17日のPMDA報告書に載る国内ARIA関連症例は、ドナネマブ95例(死亡0例)、レカネマブ87例(死亡1例)です。
これらは複数の関連用語を対象にした副作用等報告データベースの集積で、因果関係評価は実施されていません。
投与患者数を分母とする発現率でもないため、2剤の安全性比較には使えません。
報告件数の読み方は、JADERの報告件数を誤読しない確認順で整理しています。
4.薬剤ごとのMRI予定と投与管理
両剤は、アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度の認知症の進行抑制に用いる薬です。
疾患の進行を完全に止めたり、治癒させたりするものではありません。
必要な検査と管理ができる施設、または連携可能な施設で、適切な知識と経験を持つ医師が投与の適否を判断します。
| 確認項目 | レカネマブ レケンビ |
ドナネマブ ケサンラ |
|---|---|---|
| 用法と用量 | 10mg/kgを2週間に1回、約1時間で点滴静注 | 初回350mg、2回目700mg、3回目1050mg、以降1400mgを4週間隔。30分以上で点滴静注 |
| 投与開始前のMRI | 最新の1年以内の画像で異常所見を確認 | 最新の1年以内の画像で異常所見を確認 |
| 無症状でも必要なMRI | 5回目、7回目、14回目の投与前と、その後も定期的に実施 | 2回目、3回目、4回目、7回目の投与前と、その後も定期的に実施 |
| 追加で押さえるMRI | 3回目投与前にも実施することが望ましい。脳微小出血、高血圧などがある場合は特に実施を考慮 | 上記の予定に加え、症状や画像所見に応じて評価 |
| 特に注意する時期 | 開始から14週間以内 | 開始から24週間以内。重篤なARIAは12週間以内に多い |
出典:レケンビ電子添文6項、8.1.1〜8.1.3項、ケサンラ電子添文6項、8.2.1〜8.2.3項。症状があれば上記の予定日を待たずに対応します。ARIA発現後の検査や休薬、再開は別途の基準で判断します。
投与開始前のMRIで、血管原性脳浮腫、5個以上の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、1cmを超える脳出血が確認された患者は、両剤とも禁忌です。
成分に対する重篤な過敏症の既往も禁忌に含まれます。
APOE検査は、これらの評価を代替しません。
投与中は両剤とも6か月ごとを目安に認知機能と臨床症状を評価します。
ドナネマブでは、アミロイドβプラークの除去を確認した時点で投与を完了し、未確認でも原則最長18か月で完了します。
18か月を超える投与は、副作用や症状、プラークの変化などを踏まえた慎重な判断が必要です。
抗認知症薬全体の位置づけは、抗認知症薬の使い分けと服薬指導で確認できます。
安全性情報を継続して追う方法を見直すなら、m3.comなどを使った薬剤師の情報収集も参考になります。
5.併用薬と血圧を投与施設と共有する
抗アミロイドβ抗体薬そのものを自局で調剤していなくても、併用薬の確認には関われます。
お薬手帳、患者さんや家族への聞き取り、投与施設からの情報を組み合わせて、治療全体を確認します。
抗血栓薬の併用と変更
ワルファリン、ヘパリン、アピキサバンなどの抗凝固薬、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬、アルテプラーゼなどの血栓溶解薬は、両剤の電子添文で併用注意とされています。
脳出血が生じた際に出血を助長するおそれがあるためです。
他院での追加や中止も含め、薬剤名、用量、服用状況を確認し、投与施設へ共有します。
併用注意を理由に、患者さんへ抗血栓薬の自己中断を勧めることは避けます。
降圧薬の服用状況と血圧の記録
両剤とも、投与前の高血圧の確認と、治療中の適切な血圧管理が求められています。
降圧薬の飲み忘れ、家庭血圧の推移、継続して高い値が出ていないかを確認し、判断材料として共有します。
6.症状が出たときの連絡と受診
ARIAは無症状のことが多い一方、頭痛、めまい、ふらつき、視覚の異常、言葉の出にくさ、意識の変化などが現れることもあります。
治療開始からの期間にかかわらず、新たな症状は速やかな受診につなげます。
突然の麻痺、言語障害、意識障害などは救急対応
片側の手足に急に力が入らない、ろれつが回らない、意識がない、突然の激しい頭痛などがあれば、119番通報を含む救急対応を優先します。
投与日や薬歴をすべて確認するために、救急要請を遅らせないでください。
救急対応を要する症状がない場合も、ARIAを示唆する新たな症状があれば、次回予約まで待たず、投与施設へ連絡して速やかな受診につなげます。
緊急時には救急隊や受診先へ、抗アミロイドβ抗体薬による治療中であることを伝えます。
確認できる範囲で、症状の開始時刻と経過、薬剤名、直近の投与日、抗血栓薬の使用を共有します。
ARIAは虚血性脳卒中に似た症状を示す場合があり、両剤の電子添文は血栓溶解療法前の注意を記載しています。
薬局でARIAや脳卒中と断定せず、診察とMRIなどによる医療機関の評価へつなぎます。
出典:両剤の電子添文「重要な基本的注意」「相互作用」、厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
薬局で残す共有メモ
- 治療薬名、投与施設、開始日、直近の投与日
- 次回MRIや受診の予定、通常時と時間外の連絡先
- 抗血栓薬の変更、降圧薬の服用状況、血圧の推移
- 新たな症状、発症時刻、案内した対応と連絡先
記録は施設の運用に従い、診療上必要な範囲で共有します。
投与施設との情報連携や安全性情報の更新を日常業務に組み込むことは、地域で認知症治療を支える薬剤師の専門性につながります。
よくある質問
APOE検査を受けていないと投与できませんか?
今回の改訂は、投与前に検査の実施を考慮するという内容です。
未実施でも治療中に必要と考えるときは検討する旨があり、一律の投与条件とはされていません。
検査と治療の判断は、最新の電子添文やガイドラインに基づき、担当医の説明を受けて相談します。
非保因者ならMRIの回数を減らせますか?
APOEε4を持たないことだけを理由には減らせません。
両剤とも、保因状況にかかわらずMRIを含むARIA管理を行うよう記載されています。
APOE検査には保険が使えますか?
PMDA報告書と学会ガイドラインは、治療に伴うARIAリスク評価を目的とした検査が2026年7月に保険適用となったことを示しています。
どのような検査目的でも保険が使えるという意味ではありません。
個別の算定要件や費用は、検査を行う医療機関で確認してください。
頭痛だけなら次の診察まで待てますか?
治療中に新たな頭痛などが出た場合は、ARIAの可能性も含めた評価が必要になるため、投与施設へ速やかに連絡して受診につなげます。
突然の激しい頭痛や、麻痺、言語障害、意識障害などを伴う場合は救急対応を優先します。
6項目を日々の情報連携につなげる
検査の位置づけ、説明と同意、結果の読み方、MRIの予定、併用薬と血圧、異常時の連絡先を確認します。
遺伝子検査の説明を投与施設に任せきりにせず、患者さんの疑問を聞き取り、必要な相談につなぐことも薬局の役割です。
改訂情報を定期的に確認するために
PMDAの通知と電子添文を基本に、医療ニュースも組み合わせると更新を追いやすくなります。
情報収集サービスを見直す方は、m3.comを薬剤師が使うメリットをご覧ください。
参考資料
- 厚生労働省「医薬安発0817第1号 使用上の注意の改訂について」(2026年8月17日、別紙1と別紙2)
- PMDA「ドナネマブ、レカネマブの使用上の注意の改訂について」(2026年8月17日)
- レケンビ点滴静注200mg/500mg 電子添文(2026年8月改訂、第5版)。PMDA製品情報
- ケサンラ点滴静注液350mg 電子添文(2026年8月改訂、第6版)。PMDA製品情報
- 認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン 第2版(2026年7月16日、7学会監修)
- APOE適正使用ガイドライン第2版 同意説明モデル文書
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」
本記事は医療従事者向けの情報整理です。個々の患者さんへの適用は、最新の電子添文と関連ガイドラインを確認し、診療を担当する医師の判断に基づいて行ってください。


