甲状腺の薬は、同じ患者に何年も同じ処方が続くことが多く、監査の手が緩みやすい薬効群です。
しかし用量が変わっていなくても、併用薬が1剤増えただけで血中濃度が動き、次の採血で数値が振れることがあります。
ここでは、レボチロキシンナトリウム、チアマゾール、プロピルチオウラシルの3成分を、薬局で同じ順番に確認するための7項目に整理します。
この記事の結論
- レボチロキシンで先に見るのは用量ではなく、消化管内で吸着する併用薬が増減していないか。
- 電子添文は「投与間隔をできる限りあける」と書いており、何時間あけるかは指定していない。
- メルカゾール錠は開始から2か月が血液検査の山で、患者に伝えるべきは発熱と咽頭痛。
- 妊娠の可能性がある女性では、チアマゾールとプロピルチオウラシルの立場が週数で入れ替わる。
- 用量の変更、休薬、薬剤の切り替えは、いずれも処方医が患者ごとに判断する。
一次情報の確認範囲
2026年8月22日に、チラーヂンS錠(2024年6月改訂 第2版)、メルカゾール錠(2025年6月改訂 第3版)、プロパジール錠(2021年5月改訂 第1版)の電子添文を確認しました。2025年6月の改訂で、メルカゾール錠の「重大な副作用」に急性膵炎が追記されています。妊娠期の薬剤選択と副作用の頻度は、日本甲状腺学会『バセドウ病治療ガイドライン2019』、吉原愛「妊娠期のバセドウ病の治療」(日本内分泌外科学会雑誌 40巻3号、2023年)、西原永潤「バセドウ病の薬物療法」(日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 35巻3号、2018年)を出典としています。用量や検査間隔は製品ごとに異なり、改訂もあるため、交付する製品の現行電子添文で確認してください。

もくじ
補充する薬と、作らせない薬を分けて見る
甲状腺の薬は「甲状腺の薬」とひとくくりにされやすいのですが、監査の着眼点は正反対です。
足りないホルモンを外から補うレボチロキシンでは、飲めているか、吸収できているかを見ます。
作りすぎを抑える抗甲状腺薬では、効きすぎと重篤な副作用を見ます。
| 成分 | 代表的な製品 | 電子添文上の用量 | 監査で先に見る箇所 |
|---|---|---|---|
| レボチロキシンナトリウム水和物 | チラーヂンS錠12.5、25、50、75、100μg、同散0.01% | 成人25〜400μgを1日1回。開始量25〜100μg、維持量100〜400μgとすることが多い | 吸着する併用薬の増減、規格の読み間違い、心疾患と高齢者での開始量 |
| チアマゾール | メルカゾール錠2.5mg、5mg | 初期1日30mgを3〜4回に分割。重症時は1日40〜60mg。維持量1日5〜10mgを1〜2回に分割 | 開始からの経過週数、白血球分画を含む血液検査、妊娠の可能性 |
| プロピルチオウラシル | プロパジール錠50mg、チウラジール錠50mg | 初期1日300mgを3〜4回に分割。重症時は1日400〜600mg。維持量1日50〜100mgを1〜2回に分割 | 肝機能検査の実施状況、開始理由(妊娠週数か、チアマゾール不耐か) |
チアマゾールとプロピルチオウラシルは、1日量の桁が違います。
プロピルチオウラシルの維持量である1日50〜100mgを、チアマゾールの感覚で「多い」と読むと、疑義照会の判断を誤ります。
処方を見たら、成分名で用量の桁を確認してから多寡を考えます。
抗甲状腺薬には小児用量も設定されています。
メルカゾール錠は初期量として5歳以上10歳未満で1日10〜20mg、10歳以上15歳未満で1日20〜30mgを2〜4回に分割、プロパジール錠は同じ年齢区分で1日100〜200mgおよび1日200〜300mgを2〜4回に分割と記載されています。
体重ではなく年齢区分で示されている点が、他の小児薬と異なります。体重換算で検算する前に、小児用量計算チェックシートの手順で、まず電子添文の記載方式を確認します。
レボチロキシンで最初に洗い出すのは併用薬の増減
レボチロキシンの用量が長く変わっていない患者でも、併用薬が変われば吸収量は変わります。
電子添文は、消化管内で本剤と結合して吸収を抑制すると考えられる薬剤を、併用注意としてまとめて挙げています。
| 分類 | 電子添文に挙がっている薬剤 | 記載されている対応 |
|---|---|---|
| 消化管内で結合し吸収を抑制 | コレスチラミン、コレスチミド、鉄剤、アルミニウム含有制酸剤、炭酸カルシウム、炭酸ランタン水和物、セベラマー塩酸塩、ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム | 同時投与により吸収が遅延または減少することがあるため、投与間隔をできる限りあけるなど慎重に投与する |
| 甲状腺ホルモンの異化を促進 | フェニトイン製剤、カルバマゼピン、フェノバルビタール | 本剤の血中濃度を低下させることがあるため、本剤を増量するなど慎重に投与する |
| 結合蛋白を増やす | 経口エストロゲン製剤 | 甲状腺ホルモン値を低下させるおそれがあるため、本剤を増量するなど慎重に投与する |
| 脱ヨード化を阻害 | アミオダロン | 甲状腺ホルモン値を上昇または低下させるおそれがあるため、甲状腺ホルモン値に注意する |
| 相手側の作用が変わる | クマリン系抗凝血剤、交感神経刺激剤、強心配糖体製剤、血糖降下剤 | 相手側の用量調節やモニタリングを行いながら慎重に投与する |
実務で見落としやすいのは、吸着する側が甲状腺の薬として意識されにくい薬だという点です。
骨粗鬆症で始まった炭酸カルシウム、透析患者のリン吸着薬、貧血で追加された鉄剤は、いずれも別の診療科から出ます。
高カリウム血症でポリスチレンスルホン酸製剤が始まった場合も同じ関係になるため、K吸着薬の処方監査7項目と併せて服用時刻を組み直します。
カルシウム製剤の配合変化を扱ったCa製剤と混合NG薬の一覧も、同じ「結合して効かなくなる」系統の確認に使えます。
「何時間あける」は電子添文には書かれていない
この併用注意で押さえておきたいのは、電子添文が時間数を指定していないことです。
記載は「本剤との投与間隔をできる限りあけるなど慎重に投与すること」であり、4時間や2時間といった数字は出てきません。
「4時間あければ大丈夫」と患者に言い切ると、電子添文にない基準を薬剤師が作ったことになります。
実務では、可能な範囲で時間を離した服用計画を作り、次回の採血結果と合わせて処方医が調整する、という順序で伝えます。
服用タイミングは吸収の話であり、用法の指定ではない
米国甲状腺学会の患者向け情報では、食事が吸収に影響するため空腹時の服用を一般的な方法として示し、毎日同じ条件で続けることを重視しています。
一方で、チラーヂンS錠の電子添文の用法は「1日1回経口投与」であり、食前や空腹時という指定はありません。
したがって、朝食後で処方されている患者に対して「飲み方が間違っている」と伝えるのは行き過ぎです。
服用時刻が毎日ばらついていないか、吸着する薬と重なっていないかを見て、変更が必要と考えるなら処方医へ相談する形にします。
💊 レボチロキシンの服用時刻を組み直す手順
STEP 1 棚卸し
鉄剤、炭酸カルシウム、アルミニウム含有制酸剤、リン吸着薬、K吸着薬、陰イオン交換樹脂の有無を確認する。
STEP 2 いつ増えたか
その薬が始まった日と、直近の甲状腺機能検査の採血日の前後関係を確認する。
STEP 3 実際の時刻
処方箋の用法ではなく、患者が実際に飲んでいる時刻を聞き取る。
STEP 4 引き継ぐ
離せる範囲で調整案を作り、採血日と併用薬の開始日を添えて処方医へ情報提供する。
用量の変更や薬剤の中止は処方医が判断します。薬局側で完結させる工程には含めていません。
補充を始める前に副腎機能を確認する場面がある
チラーヂンS錠の電子添文には、重大な副作用として狭心症、うっ血性心不全、副腎クリーゼ、肝機能障害などが記載されています。
このうち副腎クリーゼは、副腎皮質機能低下症を併せ持つ患者で問題になります。
甲状腺ホルモンを先に補うと代謝が上がり、不足している副腎皮質ホルモンの需要に供給が追いつかなくなると考えられています。
下垂体性の甲状腺機能低下症や、ステロイドを長期に使っていた患者で新たに補充が始まるときは、副腎皮質ホルモンの処方が併存しているかを見ておきます。
心疾患と高齢者では開始量そのものが違う
心疾患のある患者について、電子添文は少量から開始し、通常より長期間をかけて増量し、維持量は最小必要量とするよう求めています。
高齢者についても、少量から開始し投与間隔を延長するなど、状態を観察しながら慎重に投与するとされています。
12.5μg錠や25μg錠から始まっている処方を見て「少ないのでは」と感じたときは、この記載を先に思い出します。
虚血性心疾患を持つ患者では、補充によって心筋の酸素需要が増え、狭心症状が出ることがあります。
増量後に胸の症状が出ていないかは、規格が変わった回の交付時に必ず聞き取ります。
処方監査の7項目
1.成分、規格、剤形
チラーヂンS錠は12.5μgから100μgまで規格が細かく、μgとmgの読み違いが起こりやすい薬です。
散剤は0.01%で、1gあたり100μgに相当します。
錠から散へ、あるいは散から錠へ切り替わった処方では、換算後の1日量を数字で確認します。
経管投与の患者では剤形選択そのものが論点になるため、簡易懸濁法NG薬の見極め方で製剤側の条件も確認しておきます。
2.処方目的と原疾患
チラーヂンS錠の効能又は効果は、粘液水腫、クレチン病、甲状腺機能低下症(原発性および下垂体性)、甲状腺腫です。
同じ「甲状腺機能低下症」でも、橋本病での補充と甲状腺全摘後の補充では、目標とする検査値の水準が同じとは限りません。
甲状腺癌の術後にTSHを抑える目的で用量が決められている場合もあり、そのときは検査値が一般的な基準範囲に収まっていないことがあります。
「なぜこの用量なのか」を検査値だけで判断せず、原疾患と処方目的を薬歴に残します。
3.開始日、変更日、直近の検査値と採血日
レボチロキシンは、用量を変えてから血中の甲状腺ホルモンが定常状態に達するまで時間がかかります。
そのため、増量直後の採血値だけを見て効果を判断することはできません。
薬歴に残すのは、検査値そのものより「いつ変更し、いつ採血したか」の前後関係です。
この2つの日付が揃っていれば、次の薬剤師が処方意図を追えます。
4.吸着する併用薬と実際の服用時刻
前章の併用注意に挙がった薬が、処方箋の中だけでなくお薬手帳や市販薬にも入っていないかを確認します。
市販の胃薬にはアルミニウム含有制酸剤が、貧血向けの製品には鉄が含まれることがあります。
院外の別診療科と市販薬まで含めて洗い出すには、入院時の持参薬鑑別の確認フローと同じ手順が使えます。
5.心疾患、高齢者、副腎機能
開始量が少なく設定されている理由を、患者背景から説明できる状態にします。
増量のたびに、動悸、胸部症状、体重減少、発汗といった過剰補充を示す訴えがないかを確認します。
高齢者では、これらの症状が「年のせい」として流されることがあります。
薬が増えた時期と症状が出た時期の重なりは、せん妄で見直したい薬の見方と同じ発想で確認します。
6.抗甲状腺薬は開始からの経過週数を数える
メルカゾール錠は、この内容を「重要な基本的注意」ではなく警告欄に置いています。
警告欄は、重篤な無顆粒球症が主に投与開始後2か月以内に発現し、死亡に至った症例も報告されていると述べたうえで、少なくとも投与開始後2か月間は原則として2週に1回、それ以降も定期的に、白血球分画を含めた血液検査を実施するよう求めています。
同じ警告欄では、咽頭痛や発熱があらわれた場合は速やかに主治医へ連絡すること、この2か月間は通院して定期的な血液検査を受けることを、患者へ指導するよう求めています。
交付時の説明は、薬剤師が気を利かせて付け足す内容ではなく、電子添文が名指しで求めている工程です。
薬局でできるのは、この2か月間に該当する患者かどうかを処方開始日から数え、受診が空いていないかを確認することです。
白血球数が正常域であっても減少傾向にある場合には直ちに投与を中止するとされている点も、検査値を見るときの前提になります。
一方でプロパジール錠に警告欄はなく、無顆粒球症については重大な副作用の項で、投与中は定期的に血液検査を行うこととされています。
劇症肝炎や黄疸があらわれることを理由に定期的な肝機能検査が求められ、本剤使用後に肝機能が悪化した患者は禁忌とされています。
2剤を「同じ抗甲状腺薬」として同じ説明で渡すと、この差が消えます。
なお、甲状腺ホルモン製剤も抗甲状腺薬も、薬剤管理指導料や特定薬剤管理指導加算でいう「特に安全管理が必要な医薬品」には含まれません。
加算の対象ではありませんが、検査値と受診状況を追う記録の残し方そのものは、ハイリスク薬の調剤監査ポイントで整理した型がそのまま使えます。
7.妊娠の可能性と週数
妊娠の可能性がある女性では、抗甲状腺薬の選択が週数によって入れ替わります。
監査の段階では、妊娠の可能性と週数を確認項目として持っておきます。
妊娠中や授乳中の薬剤全般の考え方は、妊娠、授乳中の薬剤対応ガイドにまとめています。
メルカゾール開始2か月とPTUの継続検査
抗甲状腺薬で、まず見落としたくない副作用は無顆粒球症です。
白血球のうち好中球が極端に減り、感染に対する抵抗力が急激に落ちます。
電子添文では頻度不明とされていますが、西原永潤「バセドウ病の薬物療法」(日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 35巻3号、2018年)では、重症の副作用は0.1%前後の頻度で、内服開始から3か月までにほとんどが見られると報告されています。
頻度としては高くありませんが、発症すると重篤になるため、交付時の説明が結果を左右します。
⏱ 抗甲状腺薬 開始からの時間軸
開始日|交付時に伝える
発熱、のどの痛み、強い倦怠感が出たら、自己判断で飲み続けず処方元へ連絡する。連絡先を薬袋に書いて渡す。
開始〜2か月|検査が最も密な時期
メルカゾール錠では原則2週に1回、白血球分画を含む血液検査。受診が空いていないかを交付時に確認する。
〜3か月|重症副作用の大半が出る範囲
皮疹、黄疸、褐色尿、関節痛も確認する。プロパジール錠では肝機能検査の実施状況を見る。
維持期|減量と休薬の判断
その後も定期的な血液検査が必要。用量が下がっても、発熱時の連絡基準は変えずに伝え続ける。
検査の頻度と項目は製品の電子添文と主治医の方針によります。休薬や再開の判断は処方医が行います。
2025年に急性膵炎が追記された
メルカゾール錠では、2025年6月の電子添文改訂で急性膵炎が「重大な副作用」に加わりました。
PMDAの調査報告書は、国内で関連症例が6例集積し、5例は医薬品と事象との因果関係を否定できないと評価されたことを示しています。
電子添文が挙げる症状は、上腹部痛、背部痛、発熱、嘔吐などです。
発熱は無顆粒球症だけに結び付けず、腹痛や嘔吐の有無も聞き取ります。
自己判断で服用を続けるか中止するかを決めず、症状がある場合は速やかに処方元へ連絡するよう伝えます。
抗甲状腺薬側の併用注意は、メルカゾール錠、プロパジール錠ともにクマリン系抗凝血剤とジギタリス製剤の2つだけです。
いずれも薬物どうしが直接ぶつかるのではなく、甲状腺機能が正常化していく過程で相手側の効き方が変わることが理由とされています。
ワルファリンを併用している患者では、抗甲状腺薬の開始や中止、病態の変化に応じて凝固能が動くため、抗凝固薬と抗血小板薬の使い分けで挙げたモニタリング項目と併せて確認します。
説明では「副作用に気をつけてください」で終わらせず、どの症状で、誰に、いつ連絡するかまで具体化します。
風邪との区別がつかない場合でも、解熱薬だけで様子を見ず、速やかに処方元へ連絡するよう伝えます。
妊娠週数で薬剤の立場が入れ替わる
『バセドウ病治療ガイドライン2019』では、妊娠5週から9週6日まではチアマゾールを避けることとされています。
この時期は器官形成期にあたり、チアマゾールと特定の先天形態異常との関連が、国内外のコホート研究や日本甲状腺学会主導の前向き研究で示されているためです。
メルカゾール錠の電子添文も、妊娠中の投与により新生児に頭皮欠損症や頭蓋骨欠損症、臍帯ヘルニア、臍腸管の完全または部分的な遺残、気管食道ろうを伴う食道閉鎖症、後鼻孔閉鎖症などがあらわれたとの報告を記載しています。
この期間はプロピルチオウラシルまたは無機ヨウ素で治療し、妊娠中期以降はチアマゾールでの治療が可能とされています(吉原愛「妊娠期のバセドウ病の治療」日本内分泌外科学会雑誌 40巻3号、2023年)。
| 時期 | ガイドラインで示されている考え方 | 薬局で確認すること |
|---|---|---|
| 妊娠5週〜9週6日 | チアマゾールを避け、プロピルチオウラシルまたは無機ヨウ素で治療する | 妊娠が判明した日と週数。処方医が妊娠を把握しているか |
| 妊娠中期以降 | チアマゾールでの治療が可能 | 切り替え時期と、切り替え後の甲状腺機能検査の予定 |
| 妊娠中の用量 | 電子添文では、メルカゾール錠は初期1日15〜30mg、プロパジール錠は初期1日150〜300mg。いずれも2週間ごとに検査し、必要最低限量を投与する | 非妊娠時の初期量と混同していないか。受診間隔が空いていないか |
ここで薬剤師が取れる行動は限られています。
妊娠が判明した患者から相談を受けたときに、自己判断で中止すると甲状腺機能が悪化し、母体と胎児の双方に不利益が及びます。
伝えるのは「勝手にやめないこと」と「早く処方元へ連絡すること」の2点です。
プロピルチオウラシルは、劇症肝炎、黄疸、ANCA関連血管炎など、重篤な副作用の出現に留意が必要とされています。
妊娠初期に選ばれる薬というだけで安全性が高いわけではなく、監視項目が違うと理解します。
授乳についても、2剤の電子添文の記載は同じではありません。
メルカゾール錠は、ヒト母乳中へ血清とほぼ同等レベルで移行し乳児の甲状腺機能に影響を与えることがあるとして、授乳を避けさせることとしています。
プロパジール錠は、母乳中への移行が血清レベルの1/10程度であるとしたうえで、有益性を考慮して授乳の継続または中止を検討すること、大量に投与する場合は授乳しないことが望ましいとしています。
臨床では低用量での授乳継続が選択される場合もあるため、薬局で可否を決めず、電子添文の記載を伝えたうえで主治医の方針を確認してもらいます。
服薬指導では飲むタイミングと連絡する症状を分ける
甲状腺の薬の説明は、伝える内容が多くなりがちです。
薬ごとに、生活の中で調整してほしいことと、異常時に連絡してほしいことを分けて渡すと、患者側で整理しやすくなります。
| 薬剤 | 生活の中で調整してもらうこと | 連絡してもらう症状 |
|---|---|---|
| レボチロキシン | 毎日同じ時刻に飲む。鉄剤、胃薬、カルシウム製剤などは時間を離す。市販薬やサプリメントを始めるときは相談する | 動悸、胸の痛みや圧迫感、強い発汗、急な体重減少 |
| チアマゾール | 決められた採血の日に必ず受診する。妊娠がわかったらすぐ連絡する | 発熱、のどの痛み、強い倦怠感、皮膚や白目が黄色い、褐色尿、上腹部痛、背部痛、嘔吐 |
| プロピルチオウラシル | 1日3〜4回に分けて飲む指示が多い。飲み忘れたときの対応を確認しておく | 発熱、のどの痛みに加え、食欲不振、倦怠感、黄疸など肝障害を示す症状 |
飲み忘れへの対応は、薬剤と処方内容によって変わります。
2回分をまとめる、翌日の量を変えるといった案内を一律にせず、あらかじめ処方医や薬剤師から示された対応を確認します。指示がわからない場合は、次の服用前に処方元または薬局へ相談してもらいます。
薬歴に残す7項目テンプレート
薬歴テンプレート
甲状腺関連薬:(商品名/一般名/剤形/規格/1日量)。処方目的:(補充/機能亢進症/術後/その他)と原疾患:( )。前回からの用量変更:(有/無、変更日 )。直近の甲状腺機能検査:(TSH /FT4 )、採血日:( )、次回採血予定:( )。吸着する併用薬:(薬剤名/開始日/調整後の服用時刻)。抗甲状腺薬の場合:処方開始日( )、開始から( )週、直近の血液検査日( )、白血球分画の確認(有/無)。妊娠の可能性:(確認済/該当なし/妊娠 週)。患者説明:(服用時刻/時間を離す薬/連絡する症状/連絡先)。処方元への確認:(不要/疑義照会/服薬情報等提供/次回確認)。
「甲状腺薬継続、変化なし」とだけ残すと、次の薬剤師は併用薬がいつ増えたのかを追えません。
日付、検査値、併用薬の変化、患者の訴え、薬剤師が取った行動を分けて書きます。
確認手順をチームで引き継げる形にする
甲状腺薬の監査では、処方箋だけでなく、別の診療科の薬、採血日、妊娠週数、患者が実際に飲む時刻をつなぐ必要があります。
この情報を一人の記憶に置くと、担当者が変わった日に確認が途切れます。
7項目を薬歴テンプレートや朝礼メモとして共有し、誰が交付しても同じ順番で確認できる状態にします。
制度と安全性情報を現場へ落とす役割は、薬剤師の職務設計にも関わります。働き方を比較する場面では、検査値を確認できる環境、疑義照会や情報提供の担当、電子添文を更新する時間、休日時の引継ぎ方法を確認項目にします。
電子添文とガイドラインの改訂を拾う入り口を持つ
甲状腺の薬は処方が長く続くぶん、電子添文の改訂やガイドラインの更新に気付きにくい薬効群です。改訂の速報や医療ニュースを拾う入り口として、m3.comを薬剤師の情報収集に使うときの整理も参考になります。
ニュース記事だけで用量や相互作用を判断せず、最後は現行の電子添文と処方医の指示で確認します。制度や通知そのものを一次情報から確認する手順は、厚労省の告示、通知、疑義解釈の探し方にまとめています。
よくある質問
レボチロキシンと鉄剤は何時間あければよいですか?
チラーヂンS錠の電子添文は「投与間隔をできる限りあけるなど慎重に投与すること」と記載しており、具体的な時間数を示していません。
そのため、薬局側で時間を断定して案内するのは避け、生活の中で離せる時刻を患者と一緒に決めたうえで、次回の検査結果を踏まえて処方医が判断する形にします。
チラーヂンSは必ず朝の空腹時に飲む必要がありますか?
空腹時のほうが吸収がよいことは知られていますが、電子添文の用法は「1日1回経口投与」で、食前や空腹時の指定はありません。
すでに朝食後で安定している患者に対して、服用時刻の変更を薬局の判断だけで指示することはできません。
毎日同じ時刻に飲めているか、吸着する薬と重なっていないかを優先して確認します。
メルカゾールとプロパジールは、どちらが優れた薬ですか?
優劣ではなく、使い分けの問題です。
前掲の「バセドウ病の薬物療法」では、チアマゾールが第一選択薬とされ、力価、作用時間、甲状腺機能が正常化するまでの速さ、副作用頻度の点で有利と述べられています。
一方で妊娠5週から9週6日の期間は、ガイドライン上チアマゾールを避けるため、プロピルチオウラシルや無機ヨウ素が用いられます。
どちらを使うかは、妊娠の可能性、副作用歴、重症度をもとに処方医が判断します。
抗甲状腺薬はいつまで続けるのですか?
期間は患者ごとに異なります。
前掲の「バセドウ病の薬物療法」では、2年以内に休薬まで到達できる患者は約3割で、休薬後も約3割が再発すると報告されています。
「そろそろやめられるはず」という説明はできないため、受診と検査を続ける必要性を伝える方向で対応します。
甲状腺の薬を飲んでいる患者に市販薬を勧めても問題ありませんか?
成分によっては問題になります。
アルミニウム含有制酸剤を含む胃薬や、鉄を含む製品は、レボチロキシンの吸収に影響する併用注意に該当します。
ヨウ素を含むうがい薬やサプリメントも、甲状腺機能に影響しうるため、購入前に相談してもらう案内をしておきます。
参考一次情報
- PMDA「チラーヂンS錠12.5μg/25μg/50μg/75μg/100μg」(2024年6月改訂 第2版)
- PMDA「メルカゾール錠2.5mg/5mg」(2025年6月改訂 第3版)
- PMDA「チアマゾールの急性膵炎に関する調査結果」(2025年6月24日)
- PMDA「プロパジール錠50mg 電子添文」(2021年5月改訂 第1版)
- 日本甲状腺学会「診断ガイドライン」(『バセドウ病治療ガイドライン2019』の案内、妊娠期の抗甲状腺薬の選択)
- 西原永潤「バセドウ病の薬物療法」日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 35巻3号、2018年
- 吉原愛「妊娠期のバセドウ病の治療」日本内分泌外科学会雑誌 40巻3号、2023年
- American Thyroid Association「Thyroid Hormone Treatment」(レボチロキシンの服用条件を一定に保つ患者向け情報)
用量、検査間隔、相互作用の記載は製品ごとに異なり、改訂もあります。交付する製品の現行電子添文で確認してください。
まとめ
甲状腺の薬の監査は、用量が変わっていないときほど手薄になります。
レボチロキシンでは、消化管内で結合する併用薬が増減していないかを最初に見ます。
電子添文が指定しているのは「間隔をあける」ことであり、何時間かではありません。
抗甲状腺薬では、開始からの経過週数を数え、発熱と咽頭痛を連絡基準として渡します。
妊娠の可能性がある女性では、週数によって選ばれる薬が入れ替わるため、確認そのものを監査項目に組み込みます。
いずれの薬でも、開始、増減、休薬、切り替えを決めるのは処方医です。薬剤師の役割は、判断に必要な情報を揃えて渡すことにあります。

