「デパスの入庫も、サイレースの廃棄も、同じ帳簿に書くのでしょうか」。
薬局の向精神薬管理では、薬の分類だけでなく、誰から受け取り、何のために動かしたかによって記録の扱いが変わります。
第1種と第2種には取引や廃棄の記録義務があり、第3種には同じ義務がありません。
一方、保管や事故対応は第3種も対象です。
「記録義務なし」を「管理しなくてよい」と読み替えないことが、最初の確認点になります。
2026年9月1日に、東京都の薬局用手引(2026年3月改訂)、厚生労働省の手引と法令、PMDAの電子添文を確認しました。
ここでいう向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法(以下、麻向法)で指定された薬を指します。
精神科で使う薬全体を指す言葉ではありません。
8項目で確認する範囲
- 在庫の分類と確認日
- 取引や廃棄の記録
- 記録の保存期間と保存場所
- 保管場所と施錠
- 麻薬などとの区分保管
- 自局在庫と患者返却品の廃棄
- 事故時の確認と連絡
- 在庫確認と担当者の引き継ぎ
法令上の義務と、薬局内で決める推奨運用を分けて確認します。
末尾に、担当者や見直し事項を記入できるチェックシートを置きました。
麻薬の廃棄届や帳簿とは扱いが異なります。
麻薬側の手続きは薬局の麻薬廃棄実務で別に確認してください。
もくじ
分類ごとの記録義務と共通の管理
分類は薬効や見た目から推測せず、製品の表示、電子添文、行政の向精神薬一覧で確認します。
次の表は代表例です。
全品目を網羅するものではなく、採用品目は後発品を含めて自局の一覧にします。
| 分類 | 代表的な成分と製品 | 麻向法上の取引と廃棄の記録 |
|---|---|---|
| 第1種 | メチルフェニデート(コンサータ、リタリン)、モダフィニル(モディオダール) | 必要。ただし患者への交付等には例外あり |
| 第2種 | フルニトラゼパム(サイレース)、ペンタゾシン(ソセゴン)、ブプレノルフィン(ノルスパンテープ、レペタン)、ペントバルビタール(ラボナ) | 必要。ただし患者への交付等には例外あり |
| 第3種 | エチゾラム(デパス)、ゾピクロン(アモバン)、ゾルピデム(マイスリー)、ブロチゾラム(レンドルミン)など | 同条の記録義務はなし。在庫管理のための記録は推奨 |
出典:東京都「向精神薬取扱いの手引」2026年3月版、本文5ページおよび16〜19ページ。
保管、廃棄方法、事故届の基本ルールは第1種から第3種まで共通ですが、個別製剤の流通管理は別に確認します。
睡眠薬でも、法令上の区分は同じではありません
アモバンの成分ゾピクロンは第3種向精神薬ですが、ルネスタの成分エスゾピクロンは、確認した電子添文では習慣性医薬品と処方箋医薬品に区分され、向精神薬の記載はありません。
似た薬名や用途だけで分類できない例です。
向精神薬に指定されていないことは、依存などの注意が不要という意味ではありません。
治療上の注意は各製品の電子添文で確認し、管理上の区分とは分けて説明します。
ルネスタの根拠はPMDAの製品情報から確認できます。
記録が必要な場面と例外
第1種または第2種の譲受、譲渡、廃棄では、麻向法第50条の23に基づき、品名と数量、その年月日を記録します。
譲受と譲渡では、相手方の営業所等の名称と所在地も記録します。
廃棄には取引先がいないため、すべての場面で相手方欄が必須という説明にはしません。

| 場面 | 麻向法上の記録 | 薬局での確認点 |
|---|---|---|
| 卸からの購入、卸への返品 | 必要 | 本社名だけでなく、取引した営業所等の名称と所在地を残す |
| 他薬局との譲受と譲渡 | 必要 | 同一開設者の店舗間でも必要。取引の可否と製品別の流通管理は先に確認 |
| 期限切れなど、自局在庫の廃棄 | 必要 | 品名、数量、廃棄年月日を残す |
| 処方箋に基づく患者への交付 | この記録は不要 | 調剤録や薬歴などの記録まで不要になるわけではない |
| 患者からの返却と、その返却品の廃棄 | この記録は不要 | 仕入れた在庫の廃棄と混同せず、返却品として区別する |
患者への交付等の例外は、麻向法と同法施行規則第42条に基づく扱いです。
「記録不要」は、向精神薬の取引や廃棄に関するこの記録に限った説明です。
東京都の現行手引も、薬機法上の医薬品の記録と両方の規定を満たすよう求めています。
第3種を含め、他制度の記録や保存期間を、この表だけで省略しないでください。
保存期間は条文と帳簿運用を分けて確認します
麻向法第50条の23第4項は、記録を記録の日から2年間、営業所等で保存する規定です。
一方、厚生労働省の薬局向け手引(2012年2月)は、記録を「最終記載の日から2年間」保存する運用を示しています。
条文上の保存期間と、帳簿をまとめて保存する運用を区別して確認してください。
薬局の手順書では、適用されるほかの保存義務も確認したうえで、帳簿や伝票をいつまで、どこに保存するかを決めます。
すでに最終記載日から2年間、またはそれ以上保管する運用がある場合に、この説明だけを理由に期間を短縮する必要はありません。
記録は帳簿への記入のほか、必要事項のある伝票を保存する方法もあります。
伝票で代える場合は、向精神薬の記載がない伝票と分けて綴ります。
卸売業者としての取引と小売業者としての取引は、厚労省の手引に沿って記録を分けて管理します。
保管場所と施錠の確認
第3種を含め、向精神薬は薬局内の人目につかない場所に保管します。
業務従事者が実地に盗難防止のための必要な注意をしている場合を除き、かぎをかけた設備内で保管する扱いです。
東京都の手引は、調剤室や薬品倉庫で保管するとき、夜間や休日など注意を払う人がいない時間は出入口を施錠する例を示しています。
日中でも、必要な注意を払っていない場合は同様です。
ロッカーや引き出しで保管する場合は、それ自体または部屋の出入口を施錠する例が示されています。
営業中であることや、薬剤師が建物内にいることだけで、施錠を省略できるとは判断しません。
昼休み、全員が調剤室から離れる時間、閉局時を分けて、誰が注意を払い、誰が施錠を確認するかを決めます。
電子添文の貯法など、品質を守るための条件も別に満たします。
- 麻薬保管庫に、麻薬と向精神薬を混置しない。
- 毒薬や劇薬、毒物や劇物との区分保管を確認する。向精神薬自身に劇薬等の規制がある場合は、その要件も満たす。
- ペンタゾシンやブプレノルフィンなどの注射剤は、手引で特に厳重な管理を求められていることを共有する。
廃棄する前に、自局在庫か患者返却品かを分ける
向精神薬の廃棄には、麻向法上の許可や届出は不要です。
ただし、回収が困難な方法で処理する必要があり、第1種と第2種の自局在庫を廃棄した場合は記録します。
患者から返却されたものの廃棄は、この記録義務の例外です。
届出不要だからといって、製品を取り出して使える状態でそのまま廃棄する扱いにはできません。
具体的な処理方法は剤形、製品の注意事項、廃棄物処理に関するルールを踏まえ、管轄行政や委託先と確認して手順書に定めます。
本記事では、放流などの方法を一律に勧めません。
患者返却品については、薬局内の運用提案として、仕入れ在庫と区別し、保管状況を確認できないものを安易に再調剤へ回さない手順にします。
これは麻向法上の記録免除とは別の、品質管理の確認です。
事故届の数量基準と、基準未満でも連絡する場面
薬局が所有する向精神薬に、次の数量以上の滅失、盗取、所在不明などの事故が生じた場合は、速やかに向精神薬事故届を提出します。
第3種も対象です。
具体的な提出窓口と様式は、薬局所在地の都道府県や保健所の案内を確認してください。
| 剤形 | 数量 |
|---|---|
| 末、散剤、顆粒剤 | 100グラム(包)以上 |
| 錠剤、カプセル剤、坐剤 | 120個以上 |
| 注射剤 | 10アンプル(バイアル)以上 |
| 内用液剤 | 10容器以上 |
| 経皮吸収型製剤 | 10枚以上 |
数量表は厚労省の薬局用手引と東京都2026年3月版4ページに基づきます。
ODフィルム剤は錠剤として扱われます。
散剤等の「グラム(包)」の数え方に迷う場合も、管轄窓口へ確認します。
盗難や強奪、脅取、詐取であることが明らかな場合は、数量基準未満でも事故届を出し、警察にも届け出ると行政の手引は示しています。
「120錠未満だから報告しない」という判断にはなりません。
棚卸しの差を見つけたら、まず実数を再確認し、入出庫、返品、廃棄などの記録と照合します。
数量基準に届くまで調査を待たず、不審な点があれば管理薬剤師へ速やかに共有します。
事故に当たるか、届出が必要か判断できない場合は、状況を整理して管轄窓口へ相談します。
疑義照会は、不審な点が複数そろうまで待ちません
薬剤師法第24条は、処方箋に疑わしい点がある場合、交付した医師等に確認した後でなければ調剤できないと定めています。
日数の書き換えが疑われるなど、確認が必要な点が一つでもあれば照会します。
「複数の兆候がそろった場合だけ照会する」という条件は設けません。
一方、初めての来局や在庫を尋ねる電話だけで、偽造と断定することもできません。
患者を決めつけず、処方内容や記載の不整合を具体的に確認します。
照会時の整理には疑義照会の実務ガイドも使えます。
偽造と判明した処方箋では調剤せず、警察や管轄保健所へ連絡します。
交付後に詐取と判明した場合は、数量基準未満でも向精神薬事故届の対象として対応します。
東京都の現行手引には、交付前と交付後を分けた対応図があります。
流通管理薬は製品ごとの登録条件を確認
向精神薬の分類だけで、すべての取引や調剤の条件が決まるわけではありません。
リタリン、コンサータ、モディオダール、ノルスパンテープは、製品別の流通管理も確認します。
| 製品 | 調剤前の確認 |
|---|---|
| リタリン | 薬局の登録と、処方医師や医療機関の登録を、製品の流通管理基準で確認する |
| コンサータ | 登録された医師と薬剤師のいる施設で取り扱う。調剤前に医師、医療機関、患者の管理システムへの登録を確認する |
| モディオダール | 薬局の登録と、処方医師や医療機関の登録を確認する |
| ノルスパンテープ | 薬局の登録と、処方元医師の講習修了を確認する。確認できない場合は調剤せず、疑義照会と流通管理窓口への連絡を行う |
コンサータの確認点は、2026年6月改訂の電子添文の警告に基づきます。
処方医師だけの確認で終えないようにします。
東京都の手引は、リタリン、コンサータ、モディオダールについて薬局間で譲受や譲渡をしないよう示しています。
一方、ノルスパンテープは登録されていない薬局間の取引をしない旨の記載であり、同じ文章にまとめると条件を取り違えます。
実際の取引を検討する前に、製品別の流通管理窓口へ確認してください。
手順書の見直しでは、行政の通知と製品情報を先に確認します。
日常の情報収集を補う方法として、薬剤師向けのm3.comの使い方も整理しています。
ニュースの要約だけで取扱いを決めず、根拠資料に戻って確認してください。
薬局で使う8項目チェックシート
確認日、担当者、見直す手順と期限を添えて使います。
法定帳簿や事故届の代わりではなく、管理体制の点検用のシートです。
患者情報や実際の在庫差は、薬局が承認した記録環境で扱ってください。
| 番号 | 点検項目 | 義務と運用の区別 | 結果/見直すこと/担当/期限 |
|---|---|---|---|
| 1 | 全向精神薬の分類を確認し、第1種と第2種を識別できる | 一覧化と確認日の記入は運用提案。流通管理薬の登録も確認 | □確認済 □要見直し ____ |
| 2 | 第1種と第2種の取引や自局在庫廃棄を記録している | 法定記録。患者交付や返却品の例外を区別 | □確認済 □要見直し ____ |
| 3 | 帳簿や伝票の保存場所と期限を決めている | 法定保存は記録の日から2年間。手引の運用と他制度も確認 | □確認済 □要見直し ____ |
| 4 | 人目につかない保管場所と、必要な施錠を確保している | 法令と行政手引に基づく管理。無人時間帯の担当を具体化 | □確認済 □要見直し ____ |
| 5 | 麻薬等との区分と、製品の貯法を確認している | 麻薬保管庫への混置を避け、重なる規制も確認 | □確認済 □要見直し ____ |
| 6 | 自局在庫と患者返却品の廃棄を分けている | 回収困難な処理と必要な記録は義務。手順を薬局内で統一 | □確認済 □要見直し ____ |
| 7 | 事故の数量基準と、詐取等の例外を共有している | 届出の要否を確認。保健所等と警察の連絡先を用意 | □確認済 □要見直し ____ |
| 8 | 第3種も含めて在庫を確認し、担当交代時に引き継いでいる | 定期的な在庫確認は行政手引の推奨。頻度と担当は自局で決定 | □確認済 □要見直し ____ |
第1種と第2種だけの一覧では、第3種の紛失や保管状況を確認できません。
記録義務のある品目を識別しつつ、在庫確認や事故対応の対象から第3種を外さない構成にします。
よくある質問
第3種も施錠が必要ですか
保管の基本ルールは第1種と第2種と共通です。
業務従事者が実地に盗難防止のための必要な注意をしている場合を除き、施錠した設備内で保管します。
記録義務の違いから、施錠の要否を判断することはできません。
患者返却品の廃棄は、何も記録しなくてよいですか
麻向法上の向精神薬の取引と廃棄の記録は不要です。
ただし、服薬状況の確認、薬歴、返却品の管理などまで不要になる意味ではありません。
必要な記録を別に判断します。
在庫システムがあれば帳簿の代わりになりますか
在庫数が表示されることと、必要事項を記録して必要期間保存できることは別です。
電子保存の可否や要件を、このシステムなら満たすと一律に判断することはできません。
導入前に、記録項目、保存期間、提示方法等を整理し、管轄の薬務主管課や保健所へ確認してください。
海外へは1か月分なら手続きなしで持って行けますか
日数だけでは判断できません。
麻向法上は、注射剤かどうかと、成分の総量が施行規則別表の量を超えるかどうかで、携帯する書類の要否を確認します。
注射剤や表の量を超える場合は、処方箋の写しなど、自己の治療に必要であることを示す書類を携帯します。
日本への持ち込みでは輸入確認証の手続きが別に必要な場合があり、渡航先の規制も別です。
麻薬取締部の携帯輸出入案内と渡航先の大使館等で確認します。
ここでは具体的な携帯量や手続き不要を個別に保証しません。
向精神薬の取扱いには別の免許が必要ですか
通常の薬局開設者は、別段の申出がなければ、麻向法第50条の26により向精神薬卸売業者と小売業者の免許を受けた者とみなされます。
同条第3項により薬局の管理者は向精神薬取扱責任者とみなされます。
ただし、この特例でコンサータなどの製品別登録まで済むわけではありません。
管理の手順を、担当者が替わっても使える形にする
管理薬剤師には、向精神薬の取扱いが適切に行われるよう従事者を監督する役割があります。
その役割を日常業務で果たせるように、保管場所、記録の所在、異常時の連絡先、流通管理薬の確認方法を引き継ぎます。
体制を点検するときは、個人の注意力だけでなく、確認の時間と担当者が確保されているかも見ます。
こうした手順の整備は、管理業務の経験を具体的に説明する材料にもなりますが、昇給や転職成果を保証するものではありません。
職責や支援体制を整理したい場合は、管理薬剤師になる前の確認表を参考にしてください。
関連する実務記事
参考資料と確認範囲
- 東京都「向精神薬取扱いの手引(薬局用)」掲載ページ:2026年3月発行。現行PDFと最新の問い合わせ先への入口。
- 同手引PDF:本文3〜5ページ(保管、廃棄、事故、記録)、7〜10ページ(偽造処方箋)、11〜19ページ(流通管理と分類)。
- 厚生労働省「薬局における向精神薬取扱いの手引」:2012年2月。旧作成資料として扱い、法令や現行製品情報と照合。
- 厚生労働省法令等データベース「麻薬及び向精神薬取締法」:第50条の20〜23、第50条の26等。
- e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法施行規則」:第40〜42条等。
- 厚生労働省法令等データベース「薬剤師法」:第24条(疑義照会)、第27〜28条(処方箋と調剤録の保存)。
- PMDA「ルネスタ錠」製品情報:電子添文2024年12月改訂、第2版の規制区分。
- PMDA「コンサータ錠」製品情報:電子添文2026年6月改訂、第5版、警告1.1。
- ノルスパンテープ「医療機関、薬局の登録に関する確認事項」:処方元医師の講習修了確認と流通管理窓口への連絡。
- 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「麻薬、覚醒剤原料などを携帯して日本を出入国する方へ」:医療用向精神薬の携帯輸出入。
本記事は薬剤師向けの一般的な実務整理です。
東京都固有の様式や窓口を全国共通とは扱いません。
個別の取扱いは現行法令、製品の流通管理基準、薬局所在地の行政案内で確認してください。
点検シートや引き継ぎ方法の提案は、法定様式ではありません。

